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憲法問題対策センター

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第34回「表現の自由の保障の意味を今一度考える」(2024年10月号)

弁護士 遠藤啓之(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
表現の自由の保障の意味を今一度考える

憲法第21条第1項は、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由はこれを保障する。」と規定する。「その他」とあり、「その他の」ではないことから、その前の事項は並記ではなく、独立のものと理解することもでき、集会、結社のみならず言論、出版と並び一切の「表現の自由」が保障対象ととらえることもできよう。もっとも、言論、出版は、表現行為の表れであること、用語法としては「その他」のあとの事項がその前を受けてその総称としてとらえられることもあるから、表現行為としての言論、出版とそれ以外の一切の表現行為が憲法上保障されているとみる方が素直かもしれない。また、日本国憲法の英文版もFreedom of assembly and association as well as speech, press and all other forms of expression are guaranteed.とその他一切の表現として言論、出版を前に例示として示していると読み取れる。

さて、人が表現行為をするのは、人が社会的動物であり、心の中に浮かぶものを他者に伝達することを欲するからであるというのが第一義的な理由と言えよう。表現の自由と並び、思想及び良心といった内心の自由が保障されており、その表明行為としての表現も人間の大事な精神活動だからである。だが、内心は見えないとしてもひとたび表現されると、他者に認識されることになる。そこで、他の人権との調整の原理である「公共の福祉」の問題が生じる。

いわゆるプロバイダー責任法は、表現の自由に配慮しつつ、プライバシー、名誉権、人格権などの個人法益を侵害する表現行為についてその発信者の氏名、住所等の情報の開示請求権を被害者に与えるものである。同法に基づく発信者情報開示請求の事件に何件か対応したことがある。時間的制約を切り抜け、たどり着いた相手と交渉をした。素直に自分のした行為の非を認めて謝罪する者、自己の行為を正当化するべく弁解する者さまざまであった。弁解は、悪いと思ったけどやった、掲示板を盛り上げたかった、被害者を鼓舞して応援するつもりだったなどとさまざまである。

憲法の本来的な対国家的な意味での表現の自由について、個人の尊厳以下表現の対象となる者の権利、利益を法律をもって規制する、その公共の福祉によるバランスが発信者情報開示手続である。

内心は絶対的に自由であるべきであり、表現は自由であるとしても、他者を不必要に傷つけるものではないか、侮辱、名誉毀損のように犯罪行為に当たらないか、プライバシーを不当に侵害しないか、一定の属性をもつ人や社会的に弱い立場の人をことさらに攻撃するものではないか、今一度、発せられた表現には受け手がいることを考えて自由な言論空間を利用してほしい、そう思った。

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