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第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編➂)(2023年1月号)

弁護士 眞珠浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編➂)

5【バングラデシュ】縫製工場における過酷な労働「メイド・イン・バングラデシュ」
バングラデシュにはアパレル産業の工場が多く集まっており、日本の著名なファストファッション会社の工場もあります。その多くにおいて、労働者は劣悪な条件に置かれ、過酷な長時間労働が強いられてきたと言われています。
「メイド・イン・バングラデシュ」は、実話に基づいて、そのような縫製工場の実態を描き出した作品です。ほとんどの労働者は女性で、低賃金の長時間労働を強いられているばかりか、簡単に解雇されてしまいます。映画では、主人公が組合を結成して自分たちの権利を守ろうとしても妨害され、役所に救済を求めて駆け込んでもうやむやにされます。そんな中でも決して諦めず、権利のための闘争を続ける姿は感動的ですが、私たちが普段気軽に着ている服も、そのような環境で作られたものかもしれないことに思いを致すと、他人事ではいられません。

6【香港】民主化運動の弾圧と一国二制度、自由の崩壊Blue Island 憂鬱之島」「時代革命」  
香港では、2014年に民主化要求デモ「雨傘運動」が大きな盛り上がりを見せるなど民主化が進み、2019年、香港から中国本土への被疑者の移送を可能とする逃亡犯条例改正案に対して大きな反対運動が起こりました。しかし、この運動は香港政府によって弾圧されて多くの逮捕者を出し、自由であった言論は2020年の香港国家安全維持法の施行により息の根を止められました。
「Blue Island 憂鬱之島」は、1966年以降の文化大革命、1967年の六七暴動、1989年の天安門事件という中国・香港における3つの事件を生きた人々の姿を現代の香港人が再現しつつ、「憂鬱之島」となってしまった香港で、それでも希望を捨てずに自由を求め続ける香港人の姿を描いた作品です。
「時代革命」は、逃亡犯条例改正案に反対したデモ隊の180日間に迫ったドキュメンタリーです。デモは一時、香港の人口の約3割を占める約200万人が参加する盛り上がりを見せ、同改正案の撤回を勝ち取りましたが、香港国家安全維持法の施行により中国政府が国際的に約束した一国二制度は実質的に失われると共に、人々の自由は奪われてしまいました。
これら2作品はいずれも、香港人の監督が香港を描いたものでありながら、香港での上映は許されておらず、香港の人々は見る機会を奪われています。中国政府は、国外からの香港の人権状況についての批判を「内政干渉」として受け入れようとしませんが、人権は人として当然に認められるべき普遍的な概念であり、内政干渉との指摘は的外れと言うべきです。

7【タイ】漁業における奴隷労働と人権侵害「ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇」
寿司・刺身に限らず、日本の食生活・食文化においては、様々なシーフードが欠かせません。しかし、そのシーフードはどこでどのようにして捕られたものか、知る機会は少ないでしょう。
ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇」は、タイの漁業の闇に迫ったドキュメンタリーです。にわかに信じがたい話ですが、この作品は、ミャンマー(ビルマ)等から来た多くの若者が騙されて漁船に乗せられ、時には覚せい剤まで打たれながら、逃げ場のない船上で奴隷のように漁業に従事させられる実態に迫っています。環境団体のWWFジャパンによると、そのようにして捕らえれたシーフードの相当量が日本にも輸出されているということであり、私たちも知らないうちに口にしているかもしれないとすれば、無関心ではいられません。映画に登場する女性、パティマ・タンプチャヤクル氏は、このような漁業者たちを救う活動に従事しており、2017年ノーベル平和賞にノミネートされました。

以上、世界の様々な国・地域を描いた作品を見てきましたが、2023年は、このような憂うべき人権状況が少しでも改善されるように、一人一人何が出来るか考え、また、実際に出来ることを実践していきたいものです。

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