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憲法問題対策センター

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第33回「古くて新しい憲法のはなし⑫ 外国人と人権~外国籍と日本国籍とで人権保障に差を設けてよいのか~」(2024年8月号)

弁護士 津田二郎(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
外国人と人権 ~外国籍と日本国籍とで人権保障に差を設けてよいのか~

外国籍であることを理由に千葉市が生活保護申請を却下したのは違法だとして、ガーナ国籍の方が生活保護法に基づく保護の開始を求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁は2024年8月6日、外国人を生活保護の対象外とした一審千葉地裁判決を支持して、外国籍の方の控訴を棄却したとの報道がありました(以下、「本件判決」)。

報道によれば、この原告の方は2015年に来日し、2019年に重度の腎不全に罹り、在留資格が療養目的の「特定活動」に変わり就労が禁止されたため、2021年に千葉市に生活保護申請したものの、却下されたとのことです。週3回の人工透析が欠かせないことから、医療や社会保障が不十分な母国には戻れないという事情もあるそうです。

それに対して本件判決は在留外国人を生活保護法の適用外とする最高裁判例を踏襲し「政治判断により、限られた財源の下で自国民を在留外国人より優先的に扱うことも許容される」から、「生活保護法が一定の範囲の外国人に適用される根拠はない」と指摘しました。

また原告側は「少なくとも住民票を有するなどの一定の外国人には保護を認めるべきだ」と主張したものの、本件判決では「外国人を公的扶助の対象とするかは立法府の幅広い裁量に委ねられる」と判断しています。

憲法の基本原理の一つに「基本的人権の尊重」があります。「基本的人権の尊重」とは、「自分らしく生きることを国が邪魔をしてはいけない」という考え方のことです。そして「自分らしく」生きることは、そもそも「生きる」ことができなければ成し得ないものですから、「生きる」ことは基本的人権そのものです。そして「生きる」ことが不可欠であることは、国籍にかかわりません。

本件判決は、外国籍の方を公的扶助(生活保護)の対象とするかどうかは立法府(国会)の裁量としています。しかしながら、国会議員は、日本国籍を有する者だけで構成されることとなっている上、その国会議員を選ぶのは日本国籍を有する有権者です。さらに外国籍の方の政治活動の自由は広く制限できるというのが最高裁判例です。そうすると、外国籍の方が国会の議決によってその生存を確保するため生活保護の対象となるような国家意思形成を諮ることは事実上不可能だということになりそうです。

国会にいかなる内容の立法をいつ行うかの裁量があることは当然ですが、そもそも裁判所は、国会による多数決からこぼれ落ちた少数派を救済するための「人権の砦」としての役割を強く期待されています。しかし、まさに「生きるか死ぬか」という瀬戸際に立たさせれている外国籍の方に対して、結論において、制限された政治活動の自由を行使して、多数派に働きかけ国会で外国籍の方にも生活保護が受けられるように法改正してもらえ、というのでは、期待された役割とかけ離れているように思います。

国は、国際人権規約*1の批准及び「難民の地位に関する条約」*2の加入に対応するため1981年に、社会保障関係法令の国籍要件を原則として撤廃しています。もっとも生活保護法は、受給資格を「国民」としていますが、1954年に旧厚生省から出された通達によって、永住者等の長期滞在者や生活に困窮する外国人に対しては自治体の裁量により人道的措置として事実上保護を与える取り扱いをしていたため、条約の批准に差し支えがないとして改正が見送られた経緯があります。

日本に現在している外国籍の方といっても、旅行者から日本人配偶者、数代前から定住している方など様々あることから、直ちに全員を生活保護の対象にすべきだとはいいません(そもそも旅行者などどの国でも保護の対象外でしょう)。

しかし、先に述べた国際人権規約締結にあたって生活保護法の改正が見送られた経緯や本件原告が住民票もあり国民健康保険にも加入するなど日本国籍を有している方と同様の生活実態があったことを踏まえれば、この原告の方の生きることそのものを憲法の保障の外としてしまっていいのかという疑問が強く残ります。

政府として「経済のグローバル化」を進め、その中で外国人労働者等の流入を前提とした政策を強く推し進めているにもかかわらず、外国籍の方が働けなくなり収入が途絶したとしても「知らんぷり」で済ませることは、グローバル化を標榜する国のあり方として誤っているのではないかと思いますし、国籍による不合理な差別として憲法第14条に違反するともいいうると思います。


*1 社会権規約2条2項(保障する各種の社会権についての差別禁止・内外人平等取り扱いの原則)
*2 第4章で福祉について内外国人平等原則をうたう

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