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憲法問題対策センター

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第39回 日本学術会議法案の問題点(2025年5月号)

弁護士 棚橋 桂介(東京弁護士会憲法問題対策センター事務局長)
日本学術会議法案の問題点

現在、衆議院において、日本学術会議法案の審議がなされていますが、この法案については、学術会議を構成する会員の選考、選任における自律性を奪うと同時に、現行学術会議との連続性を切断するものであり、政府から独立して意見を述べる現行学術会議の基本的なあり方が根本から覆されることが強く懸念される等の批判がなされています。

他ならぬ学術会議自身が、2025年4月15日、声明「次世代につなぐ日本学術会議の継続と発展に向けて~政府による日本学術会議法案の国会提出にあたって」を発出し、法案の問題点を指摘し、学術会議があらゆる立場から独立を保ち、自主的、自律的に科学的助言などの使命を果たすためには、自ら定めるべき理念に従って、その理念が守られる仕組みを作り上げていかなければならないことを改めて述べていますが、この内容は、憲法第23条の学問の自由が高等研究教育機関の構成員に研究・教育活動の自律性を保障したものであることに鑑みれば、憲法の立場からも正当なものです。

そして、弁護士会も、日本弁護士連合会が2025年3月18日に「日本学術会議法案に反対する会長声明」を発出し、以降、全国各地の弁護士会も続々と同様の会長声明等を発出しています。当会も、2025年5月2日に「日本学術会議法案に反対する会長声明」を発出しておりますので、是非ご覧ください。

報道によれば、学術会議の有志が、国会審議で改めて浮かび上がった法案の問題点を国会議員に伝えて法案修正を実現するため、2025年5月8日、参議院議員会館で緊急集会を開き、一部の野党が独自の修正案を検討しているとのことです。

当会の会長声明でも触れられていますが、私たちは、かつて、1933年の滝川事件や1935年の天皇機関説事件において、政府が学術の世界に介入し、その結果、学術が政治に従属し戦争遂行の手段にされてしまったことを忘れてはなりません。

また、そもそも、学術会議の改組の問題は、2020年秋に発覚した、政府による「会員任命拒否」問題が発端であり、当時の菅義偉首相が、学術会議が推薦した会員候補105人のうち6人を任命せず、いまだにその理由も説明していないという事実も忘れてはなりません。

皆さんの中には、学者の世界のことなど自分には縁遠いとお感じになっていらっしゃる方もおいでかも知れません。そのような方に是非知っていただきたい言葉として、マルティン・ニーメラー牧師の言葉をご紹介して、結びとさせていただきます。

ナチが共産主義者を襲つたとき、自分はやや不安になつた。けれども結局自分は
共産主義者でなかつたので何もしなかつた。
それからナチは社会主義者を攻撃した。自分の不安はやや増大した。けれども
自分は依然として社会主義者ではなかつた。そこでやはり何もしなかつた。
それから学校が、新聞が、ユダヤ人が、というふうに次々と攻撃の手が加わ
り、そのたびに自分の不安は増したが、なおも何事も行わなかつた。
さてそれからナチは教会を攻撃した。そうして自分はまさに教会の人間であつ
た。そこで自分は何事かをした。しかしそのときにはすでに手遅れであつた。
(丸山眞男『現代における人間と政治』(1961年)による訳)

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