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憲法問題対策センター

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第25回「古くて新しい憲法のはなし⑨」(2023年7月号)

弁護士 津田二郎(東京弁護士会憲法問題対策センター事務局長)
多数決と憲法

1 国会審議を見ていると、与党会派が多数決をとろうとするのを野党会派が委員長席に詰め寄って、採決を阻止しようとするような場面に遭遇することがあります。
どういうことでしょうか。

2 例えば国会の勢力分布は、直前に行なわれた選挙の結果を反映しています。政権を担当する会派・勢力を「与党」、政権に加わらない会派・勢力を「野党」と呼んでいます。
どの政党会派が与党を構成するのかは、選挙の結果や議会内での政治力学の関係で決まりますが、議会で過半数を獲得した勢力が与党を構成する場合には、与党会派は常に多数決をしさえすれば、与党の思惑通りの立法を行うことが可能です。

3 憲法は「唯一の立法機関」である国会(第41条)を衆議院と参議院の二院制にしています(第42条)が、これはマッカーサー草案では一院制とされていたのを、西欧型の主流にならい、また明治憲法の伝統を引き継ぎ修正したもので、できるかぎり民意を忠実に反映させるための制度と説明されています。すると、民意を反映して多数派を形成した与党会派が、多数決によって議決していくことには、何の問題もなさそうです。

4 しかし、もし与党会派が万事を多数決で決めてしまい、それでかまわないとすると、「議会」の役割が何かが問われることになります。本来議会では、法律を作る(立法)過程における議論を通じて、多様な意見を法律に反映させることに意義があります。多数派は、少数派の意見を聞き入れて、より多数の賛成を得ることによって法律が制定できるようにするのです。これが、「民意を忠実に反映する」ことが意味するところです。

5 ところで少数派はどうやって多数派に対して意見を受け入れさせるのでしょうか。また多数派はなぜ少数派の意見を受け入れざるを得なくなるのでしょうか。
それは、少数派が主張する「正論」にあると思います。筋が通った正しい意見は、多数派の考えに(多少なりとも)変化を生じさせるのです。議会で、正論を尽くすことによって、少数派は、自分の意見を取り入れさせる力を得ることができます。
もちろん、どんなに正論を尽くしても多数派の意見を変えられない場合もあるでしょう。
しかしたとえ与党会派に受け入れられなくとも、少数派が議会で堂々と正論をもって討論することによって、のちにその法理に問題が生じたときに、少数派の見識が再評価されるし、そうあるべきです。
そして、その「再評価」が選挙を通じて行われることによって、少数派は、将来の多数派となる可能性があるのです。そのために、国会における審理や討論の様子がテレビやインターネット等で報道されること、それを有権者が積極的に視聴することが求められるのです。

6 与党会派による「強行採決」は、少数派の討論の機会を奪い立法過程において民意の反映を不可能にする、非民主的で暴力的な支配です。そのため、少数派は、自らの討論の機会を確保し、ひいては立法に多様な民意を反映させるという民主主義の機能を守るために、不当な強行採決を阻止しようとするのです。

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