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憲法問題対策センター

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第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編①)(2022年12月号)

弁護士 眞珠浩行(東京弁護士会憲法問題対策センター副委員長)
2022年公開の映画で考える憲法と人権

2022年は、ロシアによるウクライナ侵攻、未だ終息しないコロナ禍での東京オリンピックの開催とそれにまつわる数々の汚職の発覚、安倍元首相の銃撃とそれに続く国葬(儀)、統一教会問題等、様々な出来事がありました。その多くは、人権や憲法に関する問題と関わっています。本コラムは、2022年に公開された映画を通して、憲法と人権に関する問題を考えてみようとするものです。なお、紹介する作品は、劇場公開が終了しているものが大半ですが、劇場での上映が続いているもの、各種配信メディアによって見ることができるものもあります。

1 高齢化社会と老人の人権 「PLAN 75」
日本では、少子化と世界一の高齢化の進展、それによる国内需要と税収の減少により、今後長期にわたる社会保障費の増大と、経済力、国力の低下が懸念されています。そのような状況の下、日本は高齢者が幸せに生きられる社会になっているでしょうか?

「PLAN 75」は、このような高齢化社会における老人の生と尊厳に焦点を当てたドラマ作品です。本作品では、75歳以上の高齢者が、わずかなお金と引き換えに合法的に安楽死を選択することができる制度を国家が導入し、その制度への参加があたかも社会に貢献する善行であるかのように推奨されます。いわば現代の「姥捨て山」です。勿論フィクションですが、高齢者医療費の負担増や介護保険の給付削減等、高齢者福祉を削減するばかりの日本の現状からすると、あながち絵空事と笑って済ませられないかもしれません。生きるとは、人間の尊厳とは何か、考えさせてくれる作品です。その際、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と規定する憲法第13条が、そのヒントになるかもしれません。本作品は国際的にも評価され、カンヌ国際映画祭において、カメラドール特別賞を受賞しました。主演の倍賞千恵子氏の演技も胸を打ちます。

2 入管行政と外国人の人権 「マイスモールランド」「牛久」「ワタシタチハニンゲンダ!」
2021年3月6日、名古屋入国管理局(入管)に収容されていたスリランカ国籍の女性ウィシュマ・サンダマリさんが、体調の極度の悪化にもかかわらず、十分な手当てを受けられないまま死亡する痛ましい事件が起きました。日本の入管においては、在留資格のない外国人を、裁判所の審査もないまま無期限で収容することができ、現に何年も収容されている外国人も少なくありません。そして彼らは、仮放免によって身柄拘束を解かれても、働くことが許されず、健康保険の資格がないため医療を受けることも困難で、いつまた収容されるかと脅えながら生活せざるを得ない状況に置かれています。このような非人間的な入管の処遇を改善し、収容者の人権保護を徹底するのは喫緊の課題です。しかし、法務省は逆に、難民申請中の人であっても、申請が3回以上になると強制送還を可能としたり、退去を拒む人について刑罰を科す等により、保護を求める外国人を切り捨てる入管法の改悪を目指してきました。同法案は昨年一旦廃案になりましたが、法務省は再提出を諦めていません。次の3本の作品は、このような在留外国人が置かれている実情について伝えてくれます。
「マイスモールランド」は、母国の圧制から逃れるために来日したクルド人家族を中心に、やむを得ず在留資格のないまま滞在する外国人が置かれた過酷な状況と、明日をも知れず将来への希望を持つのが困難な状況を描いたドラマ作品です。本作品は、ベルリン国際映画祭のアムネスティ国際映画賞スペシャル・メンション(特別表彰)を授与されました。「牛久」は、アメリカ人監督が、茨城県牛久市の東日本入国管理センターに隠しカメラを持ち込んで、収容者をインタビューした映像を中心とするドキュメンタリーです。隠しカメラという手法は賛否両論がありえますが、それなくしては撮れない収容中の外国人の生の声を伝えてくれます。収容されるのが自分や家族だったら、どう感じるでしょうか。収容者の「日本はおもてなしの国だなんてよく言えるよ」の言葉が胸に刺さります。
「ワタシタチハニンゲンダ!」は、ウィシュマさんの事件や入管の問題、技能実習制度、外国人差別の歴史等に迫ったドキュメンタリーです。入管に収容されている外国人男性が、入管職員から「制圧!」の声と共に、寄ってたかって身柄を拘束されて暴行を受ける監視カメラの映像は衝撃的です。その背景として、日本は、外国人を日本人と同じ人権の享有主体ではなく、管理の対象として捉えてきた歴史的背景があることを、この作品は伝えてくれます。なお、本作品は、2023年1月17日17:00~、霞が関の弁護士会館クレオで上映が予定されている(要申込)とのことですので、ご興味ある方は、日弁連のHPの「イベント」欄をチェックしてみて下さい。


第21回 ②へつづく⇒

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