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第27回「古くて新しい憲法のはなし⑩ 労働者は団結することによって守られる~ストライキと憲法~」(2023年11月号)
弁護士 津田二郎(東京弁護士会憲法問題対策センター事務局長)
労働者は団結することによって守られる~ストライキと憲法~
1 全米俳優組合が2023年7月、ストライキを決行して、米国の配給会社の映画宣伝のために来日した俳優が、宣伝のためのイベントに出演しないことがニュースになりました。このストライキは、同年11月10日まで継続しました。
日本でも池袋の西武百貨店の労働者で組織する労働組合が、同年8月31日、百貨店組合としては実に61年ぶりにストライキを決行したことが話題となりました。
2 「ストライキ」とは「同盟罷業(どうめいひぎょう)」ともいわれ、労働者が団結して、労働条件の改善や現段階での労働条件の維持を目的として、就業(働くこと)を拒否することをいいます。「労働者が団結して」というのは、労働者で組織された労働組合が、組合の意思として行うことを決議して行うことをいいます。
ストライキを行うということは、労働者側にとっては「働かない」ことですから、ストライキを決行した日数分の賃金は発生しないということになります。反面、使用者側にとっては、労働者が働かないために、営業に重大な支障がでて損失が発生しますし、大企業であればなおさら社会的な影響も損害額も大きくなります。
使用者は、ストライキによるこのような損失を避けるために労働組合との交渉をうまく進めなければなりませんし、労働者が納得できる合理的な解決を模索することになります。
つまりストライキは、労働者が、使用者と対等に交渉をすすめるための重要な切り札なのです。
3 労働者一人ひとりが、賃金や待遇などに不満や疑問を持ち、使用者と交渉しようと思っても、「代わりは他にもいる」「いやなら辞めればいい」などといわれて取り合ってもらえなかったり、不満を持っていることを根拠として嫌がらせをされたり、退職を迫られたりするなどの不利益を与えられることもあります。
そこで憲法は、労働者一人ひとりで交渉するのではなく、団結すること、つまり労働者の団体である労働組合をつくること(団結権)、労働組合を通じてみんなで交渉すること(団体交渉権)、交渉を有利に運ぶために労働組合がみんなで行動すること(団体行動権)を認めています。そして正当な労働組合の行為であれば、使用者に損害を与えても、民事上、刑事上の責任を問わないこととしました(28条)。そのため労働組合がストライキを行い、企業に損害を与えても、その賠償をしなくて済みます。この点で憲法は、労働者が一人で行うより労働組合の活動に厚い保護を与えています。労働組合が行う団体行動には、ストライキのほか、デモンストレーション(デモ。集団示威行動)やサボタージュ(怠業)があります。
4 労働組合がストライキを行うことは、決して身勝手ではありません。もちろん労働組合も、お客様に迷惑をかけることを望んでいるわけではなく、このような影響力の大きい行動はできる限り避けたいと考えていることが多いのです。
しかし賃金など労働条件は、文字どおり労働者の生死にかかわる重要問題であり、低額で働かせ放題になっていたり、休日が充分に与えられなかったり、有給休暇も充分に消化できないなどの問題がある場合には、労働者の生活や健康を破壊してしまいかねません。その結果、まわりまわってその企業を利用する消費者等が安全安心で適切なサービスを受けられなくなる危険性も生じます。
そのため労働組合は、根拠を持って団体交渉にのぞみ、使用者に労働条件の向上や維持を求めるのですが、使用者が真剣に向き合わなかったり、合理的な理由を示すことなく要求を突っぱねるなどした場合には、やむを得ず使用者が正面から労働者の要求に向き合うように仕向けるための団体行動を行います。
5 労働者が、たった一人で使用者に意見を言うことも大切なことです。しかし、それでは、使用者に影響力をもたなかったり、かえって使用者に足下を見られて、嫌がらせや退職を迫られたりしかねません。
このようなリスクを回避する上でも(労働組合員を狙ったいやがらせ、不利益取り扱いは「不当労働行為」<労働組合法7条>として禁止されています)、交渉上の影響力を持つ上でも、労働組合の存在と活動は極めて重要です。