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憲法問題対策センター

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第44回 夏休みジュニア・ロースクールの取り組み(2025年10月号)

海老原 信彦 (東京弁護士会憲法問題対策センター市民高校生部会委員)
夏休みジュニア・ロースクールの取り組み

東京弁護士会(東弁)は、毎年7月下旬、小中高校の夏休み期間中に「夏休みジュニア・ロースクール」と称して、児童生徒さん達を対象に、裁判傍聴や模擬裁判を行ってきました。今年は、それを拡大して、普段学校への出前授業などを行っている様々な委員会も参加することとなり、子どもの権利、消費者被害(悪質商法)、労働法制、公害環境問題などに取り組んでいる委員会と共に、私たち憲法問題対策センターも参加することにしました。

私たちの委員会では、市民高校生部会の活動として、主に小学校から高校までの児童生徒さん達を対象に、憲法問題についての出前授業を行っています。普段はもっぱら学校の社会科の先生からの申し込みが多いのですが、ジュニア・ロースクールは、子ども達自身が個人で参加を申し込んでくる企画です。そこで、今回私達は、高校生を対象として、2時間枠の前半に「18歳選挙権」についての講義を行い、後半には今の社会で問題になっている憲法上のテーマについて座談会(ディスカッション)を行うことにしました。

前半の講義では、国民主権の意義、憲法と法律の違い、選挙権拡大の歴史について説明した上、最近の選挙における若者の投票率の低さの問題(20代前半の投票率は60歳代の半分程度であること)や選挙運動における注意点(メールとSNSの違いなど)についても話しました。若者の投票率の問題については、若者が投票に行かないと若者の声が政治に反映されなくなると知って、自分も選挙権を持ったら投票に行こうと思ったという声が複数ありました。

後半の座談会は、参加者には6・7名ずつ3つのグループに分かれてもらい、そこに弁護士も加わる形でディスカッションを行いました。憲法9条と平和主義のテーマを選んだグループの参加者からは、「戦争が増えているこの時代、同じ過ちをまた繰り返すのか不安になる」といった声や「これからの平和のために、憲法9条をどのような形で残していくのか考えていきたい」という声が聞かれました。

夫婦別姓をテーマに選んだグループからは、「今まではあまり関心がなかったが、この問題に取り組む弁護士から話を聞けてよかった」とか「いろいろな意見があることが分かってよかった」という声、また「関心が薄い人達にどうやってアプローチしていくのかという問題意識が心に残った」という声が聞かれました。

同性婚のテーマを選んだグループでは、参加した女子生徒が全員同性婚を認めるべきだとの意見だったので、弁護士があえて保守的な価値観から反対意見を述べる形で議論してもらいました。マイノリティの利益を大切にすべきだとの声に対して、そのグループ唯一の男子生徒からは、「少数者の利益を大切にということも分かるが、民主主義は多数者の意見をこそ重視すべきはずだから、多数者の言っていることをきちんと受け止めるべきではないか」という意見も出されました。肯定派の女子生徒達も、いろいろな価値観があるのだと知って興味深かったと述べていました。

ジュニア・ロースクールは、学年も学校も異なる生徒が参加して議論ができるので、参加した生徒達も日常接する友人達と違った意見が聞けることを新鮮に感じるようです。とりわけ男女別学の学校に通う生徒にとっては、同年代の異性が参加している場で自由に意見を述べ合う機会は、得難い経験のできる場だと思います。

この企画の参加者には、憲法条文の書かれたクリアファイルと憲法絵本「憲法って、何だろう?」をお渡ししました。どちらも日弁連が制作しているものですが、私達が憲法の出前授業を行う際に、生徒さん達に無償でお配りしているものです。今回のジュニア・ロースクールの参加者には、他に東弁の会長名の「修了証書」と東弁のマスコットキャラクター「べんとらー」の蛍光ペンも配られました。さらに今年は、各企画ごとに1名、ジャンケンの勝者に「べんとらー」のぬいぐるみを差し上げるというプレゼントも用意されていました。

そうした「お楽しみ」もある夏休みジュニア・ロースクールの取り組みは、参加する子ども達にとって有意義なだけでなく、私達にとっても、若い人達の憲法に関する率直な声を聞ける機会でもあります。私達は、来年以降もこの取り組みを続けて、憲法の価値を若い人達に広く届けていきたいと思っています。

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