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「戒厳令・緊急事態と憲法~韓国の戒厳令発令と解除から学ぶ危険性~」(2024年12月号) - 第35回 古くて新しい憲法のはなし⑬
「冤罪と三権分立~政府は裁判所の「証拠をねつ造した」との判断を尊重しなければならない~」(2024年11月号) - 第34回「表現の自由の保障の意味を今一度考える」(2024年10月号)
- 第33回「古くて新しい憲法のはなし⑫ 外国人と人権~外国籍と日本国籍とで人権保障に差を設けてよいのか~」(2024年8月号)
- 第32回「『軍事化とジェンダー』を考える ~四会憲法記念シンポジウムの報告~」(2024年7月号)
- 第31回「古くて新しい憲法のはなし⑪ 死刑制度と憲法」(2024年3月号)
- 第30回 映画「オッペンハイマー」と核兵器について(2024年2月号)
- 第29回「日本の憲法の問題点」(2024年1月号)
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- 第27回「古くて新しい憲法のはなし⑩ 労働者は団結することによって守られる~ストライキと憲法~」(2023年11月号)
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- 第23回 「憲法とSDGs」(2023年2月号)
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第47回 古くて新しい憲法のはなし⑮「治安維持法制定から100年目の教訓」(2025年11月号)
古くて新しい憲法のはなし⑮ 治安維持法制定から100年目の教訓
弁護士 津田二郎(憲法問題対策センター副委員長)
治安維持法が制定(1925<大正14>年)されてから今年で100年です。この法律は、1928(昭和3)年に緊急勅令で修正され、1941(昭和16)年に全面改正されました。1928(昭和3)年の改正によって、最高刑が死刑にまで引き上げられました。
さて、治安維持法が、「共産主義者・社会主義者」を取り締まるための法律だと考えている方は多いかもしれません。しかし、当初の目的はともかく、1928(昭和3)年改正法の実体は違います。
1925(大正14)年成立時
第一条 国体ヲ変革シ又ハ私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的卜テシテ結社ヲ組織シ(略)タル者ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
1928(昭和3)年改正法
第一条 国体ヲ変革スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者(略)ハ死刑又ハ無期若ハ七年以上ノ懲役ニ処シ(略)
第十条 私有財産制度ヲ否認スルコトヲ目的トシテ結社ヲ組織シタル者(略)ハ十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
成立時の定めと比較すれば明確ですが、改正法では国体を変革することを目的として結社を組織した者は最高死刑、私有財産制度を否認することを目的として結社を組織した者は最高でも懲役10年となっています。
当時は、天皇中心の国家(天皇主権)でしたから、現在の日本と同様の国民主権を唱えることは「国体を変革する」とみなされました。一方で「私有財産を否認する」社会主義者・共産主義とは明確に区別されていたのです。
1941(昭和16)年改正法によって、さらにこれらの目的の諸活動の協力者等も広く対象になり、裁判の簡易化(二審制、弁護人の制限)、再犯のおそれがある者をそのまま捕まえておくこと(予防拘禁)も同時に認められるようになりました。改正治安維持法は、事実上、政府の政策に反対する言論の取締法として機能することになり、その対象は、共産主義者・社会主義者らに留まらず、宗教団体・学術研究会(唯物論研究会)・芸術団体などにも広く及びました。治安維持法の制定から敗戦に伴う廃止までのおよそ20年間で、特別高等警察の拷問・虐待により194人が死亡(小説家小林多喜二も含む)し、病気により獄死した者が1503人、逮捕された者は数十万人ともいわれています。現在では、当たり前の「国民主権」、「基本的人権の尊重」、「平和主義」の考え方は、治安維持法のもとでは取り締まりの対象でした。治安維持法は、臣民の多様な言論や思想を取り締まることで、「戦争反対」の意見すら取り締まり、日本が「挙国一致」の戦争体制を築くことに大いに貢献しました。
「反日」「非国民」などと意見の違う人を罵倒する言説がSNS上で飛び交い、憲法9条堅持の立場を「お花畑」と嘲笑し、「スパイ防止法」の制定が声高に叫ばれています。スパイ防止法は、政府に反対する意見を封殺する現代の治安維持法になりはしませんか。政府の政策への反対意見は、「反日」「非国民」とされ「スパイ」に結びつけられ、取り締まりの対象となりうる。それだけで反対意見を押さえつけられます。
「誰か」を差別し蔑視する言説は、その少数派を切り捨てるだけではありません。一度その「誰か」になったら助ける人はいません。そして今度は、自分がその「誰か」にならないように自分自身の言動をがんじがらめに縛り付けて萎縮させてしまうのです。
民主主義社会では誰もが自由に意見をいえるのが基本です。力によって誰かの意見を封じ込めようとしていないか、封じ込めていないか。
今が「物言えぬ社会」の前夜にならないように、自問自答が必要です。
