東京弁護士会
公益通報者保護特別委員会

公益通報者保護特別委員会

 

社内通報窓口担当者の皆さまへ(2018年8月号)

わたしは社内弁護士として社内通報窓口業務に従事していますが、窓口には日々、様々な問題が寄せられます。必ずしもコンプライアンス上の問題と言えない、例えば、人間関係のこじれについての悩み、業務上の悩み、処遇に対する漠然とした不満、体調の不調の問題等も相応に寄せられます。

通報者の方々からすれば、コンプライアンス上の問題かどうかの線引きがよく分からない、そもそも自分が悩んでいることの問題の所在が整理できていない、だけれども、少しだけ客観的な立場でアドバイスをくれるかも知れない誰かにその苦しい胸の内を聞いて欲しい、そのために勇気を振り絞って、とにかく通報してみたということが背景にあるのだと思います。

社内通報窓口を担当していらっしゃる方からすると、そうした問題は本来的にコンプライアンス上の問題でなく、また、機能的にコンプライアンスセクションでは解決が難しい問題であるという理由で、お話を傾聴することに積極的になれなかったり、お話を傾聴することで重い気持ちになってしまったりということはあるかも知れません。

わたし自身は、必ずしも通報とは言えないそのような相談でも自分の経験や知見等に照らして、何か一つだけでも解決に向けた前向きなヒントをお示しするように心がけています。それは必ずしも「弁護士」として得た経験や知見等に限らず、一人の「人間」として生きてきた中で接したことや感じたこと等に照らして、という内容であることもあります。そうしたお話をするのは、通報者の方々のご相談の背景を全て理解したうえでのお話ではないので、勇気は要りますが、寄り添って、踏み込んで、会話を重ねて、解決に向けたアドバイス等をしてみると、通報者の方の声が会話を始めたときより軽く、明るくなっていて、最後は清々しい声で感謝されて、お話が終わったりすることが多々あります。

社内通報窓口の担当者の皆さまの業務は対応を間違えると大きなリスクを発生させてしまう、とても神経を使う大切な業務なので、その中でそのような対応をすることは一層大変に思えてしまうかも知れません。しかし、そういう「よろず相談」的なことを少しずつでも行ってみると逆に自分が救われることもありますし、そうした地道な活動により通報窓口に対する職員の皆さまからの信頼が高まり、重篤なコンプライアンス上の問題が通報として寄せられる可能性が高まるという効果も期待できるので、自分のためにも組織のためにもなるのではないかと考えております。

また、寄り添って深くお話を聞いてみると、例えば、人間関係のこじれや体調不良等の背景に、コンプライアンス上の問題が潜んでいるということもあるので、そういう意味でも通報者の方のお話を真摯に傾聴することの重要性をご理解いただけるのではないでしょうか。

外部告発を契機とした不祥事の発覚が相変わらず絶えないこと、認証制度の導入、公益通報者保護法の改正の動き等を背景として、コンプライアンスにおける内部通報制度の自浄作用への社会的期待が高まっています。特に、現在、公益通報者保護法改正に向けた議論において、外部通報の要件の緩和という議論が行われている中、通報制度間の競争が発生し、内部通報制度を職員の皆さまが使い易く、魅力的な選択肢とすることが一層、求められてくると考えます。この点、内部通報制度の器(規程等)だけ綺麗に整えることでは意味はなく、社内通報窓口の担当者の皆さまが日々、魂を込めて制度を運用していらっしゃるかどうかが、いきなり外部通報が行われるに至り、問題が社会に露呈し、組織が致命的なダメージを負うリスクを被るかどうかということに繋がってくるのではないでしょうか。

加えて、より積極的に言えば、内部通報制度を魂の込もった実効性のある制度として運用することで、不正行為等を許さない健全な風土が醸成され、それにより、組織としての個々の判断の適切性が確保されることで職員の皆さまが清々しく自らの職務について自信と誇りを持って取り組むことができるようになるとともに、ひいては、組織が社会から有意な存在として認められ続けるという意義を全うできると考えています。

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