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公益通報者保護特別委員会

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事業者に求められる公益通報対応の体制整備について(2021年3月号)

本ブログ前号(2021年1月号)でも解説したとおり、現在、消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」(以下「検討会」といいます。)にて、改正公益通報者保護法(以下「改正法」といいます。)における①「公益通報対応業務従事者の定め」(11条1項)及び②「内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置」(同条2項)に関する指針が検討されています。

指針は未だ「案」の段階ではありますが、事業者にはどのような通報対応の整備が求められることとなるのでしょうか。本ブログでは、上記のうち、現状の②「内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置」について概観します。

まず、指針案は事業者に対し、部門横断的な公益通報対応業務を行う体制の整備を求め、そのための措置として以下の4つを挙げています。

① 内部公益通報受付窓口を設置し、当該窓口に寄せられた内部公益通報について調査をし、是正に必要な措置をとる部署及び責任者を明確に定める。

② 内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に係る公益通報対応業務を行うに当たって、組織の長その他幹部に関係する事案については、これらの者からの独立性を確保する措置をとる。

③ 内部公益通報受付窓口において内部公益通報(匿名による場合を含む。)を受け付け、正当な理由がある場合を除いて、必要な調査を実施する。そして、上記の調査の結果、通報対象事実に係る法令違反行為が明らかになった場合には、速やかに是正に必要な措置をとる。また、是正に必要な措置をとった後、当該措置が適切に機能しているかを確認し、適切に機能していない場合には、改めて是正に必要な措置をとる。

④ 内部公益通報受付窓口において受け付ける内部公益通報に関し、公益通報対応業務を行う者(外部委託する場合も含む。)について、その者が関係する事案の公益通報対応業務に関与させない措置をとる。

①は受付窓口の設置と、窓口の担当部署及び責任者の明確化を求めるものです。

②は、組織の長その他幹部に関係する事案について、通報対応に独立性を確保する措置を求めるものです。具体的な対応としては、監査機関(監査役・監査等委員・監査委員等)も通報対応の報告ラインに加えることで、独立性を確保すること等が考えられます。

③は、通報が生じた場合の受付→調査→是正措置、のプロセスと、是正措置後のモニタリングを定めています。受け付けるべき通報に匿名の通報を含むことが明示された点は留意を要します。

④は、公益通報対応業務における利益相反の排除について述べるものです。通報対応が公正に実施され、また、外部からみても公正さが担保されるよう、公益通報対応業務においては、当該業務の従事者が関係する事案については、対応に関与させない措置を求めるものです。どのような範囲を利益相反と捉えるかについては、各事業者が内部規程で定めることとなります。

次に、指針案は、事業者に対し、公益通報をする者を保護する体制として、以下の2つの措置を求めています。

① 不利益な取扱いの防止に関する措置

(ⅰ) 事業者の役職員等が不利益な取扱いを行うことを防ぐための措置をとるとともに、公益通報者が不利益な取扱いを受けていないか把握する措置をとり、不利益な取扱いを把握した場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

(ⅱ) 不利益な取扱いが行われた場合に、当該行為を行った役職員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。

② 範囲外共有等の防止に関する措置

(ⅰ) 事業者の役職員等が範囲外共有を行うことを防ぐための措置をとり、 範囲外共有が行われた場合には、適切な救済・回復の措置をとる。

(ⅱ) 事業者の役職員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査が実施できないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとる。

(ⅲ) 範囲外共有や通報者の探索が行われた場合に、当該行為を行った役職員等に対して、行為態様、被害の程度、その他情状等の諸般の事情を考慮して、懲戒処分その他適切な措置をとる。


①においては、公益通報を理由とした不利益取扱いを禁止するだけでなく、予め防止するための措置をとること、実際に不利益な取扱いが生じた場合には救済・回復の措置をとること、不利益な取扱いを行った者に対して厳正な対処をとることを求め、これによって、公益通報を行っても不利益な取扱いを受けることがないとの認識を利用者に浸透させることを目的としています。

②においては、公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為(範囲外共有)や、公益通報をした者を特定しようとする行為(通報者の探索)を予め防止する措置、また、それらに該当する行為が行われた場合に厳正な対処をとることを求めています。

さらに、指針案は、事業者に対して、内部公益通報対応体制を実行的に機能させるための措置として、以下の4つの措置を求めています。

① 役職員及び退職者に対する教育・周知に関する措置

(ⅰ) 法及び内部公益通報対応体制について、役職員及び退職者に対して教育・周知を行う。特に、従事者に対しては、公益通報者を特定させる事項の取扱いについて、十分に教育を行う。

(ⅱ) 役職員及び退職者から寄せられる、内部公益通報対応体制の仕組みや不利益な取扱いに関する質問・相談に対応する。

② 是正措置等の通知に関する措置

書面により内部公益通報を受けた場合において、当該内部公益通報に係る通報対象事実の中止その他是正に必要な措置をとったときはその旨を、当該内部公益通報に係る通報対象事実がないときはその旨を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において、当該内部公益通報を行った者に対し、遅滞なく通知する。

③ 運用実績の役職員への開示、記録の保管、見直し・改善に関する措置

内部公益通報受付窓口に寄せられた内部公益通報に関する運用実績の概要を、適正な業務の遂行及び利害関係人の秘密、信用、名誉、プライバシー等の保護に支障がない範囲において役職員に開示するとともに、内部公益通報への対応に関する記録の作成・保管、内部公益通報対応体制の定期的な評価・点検を実施し、必要に応じて内部公益通報対応体制の改善を行う。

④ 内部規程の策定及び運用に関する措置

この指針において求められる事項について、内部規程において定め、また、当該規程の定めに従って運用する。

①では、通報制度の利用者への教育・周知と共に、質問・相談への対応が求められています。

②では、内部公益通報の通報対象事実の中止や是正措置を取った場合や、調査の結果、通報対象事実が存在しない場合に、通報者へのフィードバックを求めるものです。

③では、内部公益通報に関する運用実績(通報件数、是正の有無、対応の概要、内部公益通報を促すための活動状況等)の開示、記録の作成・保管、体制の定期的な評価・改善を求めています。

④では、指針が求める事項についての内部規程の定めを求めています。

以上のとおり、指針案は、事業者に対し、内部公益通報対応体制整備に関する10の措置を求めています。指針案は現在も検討が継続され、本年の春ころに取りまとめが予定されていますが、事業者においては概ね上記措置が求められることを念頭に、自社の体制整備状況を振り返ってみてはいかがでしょうか。

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