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公益通報者保護特別委員会

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コーポレートガバナンス・コード対応としての内部通報外部窓口の設置(2018年11月号)

大企業や官庁は、公益通報しやすい環境整備の一策として、外部の法律事務所や弁護士を通報先(外部窓口)に加えることが多くなりましたが、当会への通報相談のなかには、外部窓口の信頼性に疑問や不信を投げかけてくるものがあります。

ところで、東京証券取引所は、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめた「コーポレートガバナンス・コード」(以下「CGコード」といいます)を定めています(2015年6月1日制定、2018年6月1日改訂)。本則市場(市場第一部・第二部)の上場会社は、コードの全原則について、マザーズ及びJASDAQの上場会社は、コードの基本原則について、実施しないものがある場合には、その理由を説明することが求められています。
https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/index.html(外部サイト)

そして、CGコードの原則2-5及び補充原則2-5①は、内部通報制度について、以下の定めを置いています。
【原則2-5.内部通報】
上場会社は、その従業員等が、不利益を被る危険を懸念することなく、違法または不適切な行為・情報開示に関する情報や真摯な疑念を伝えることができるよう、また、伝えられた情報や疑念が客観的に検証され適切に活用されるよう、内部通報に係る適切な体制整備を行うべきである。取締役会は、こうした体制整備を実現する責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきである。
【補充原則2-5①】
上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の設置(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また、情報提供者の秘匿と不利益取扱の禁止に関する規律を整備すべきである。

上場企業は、上記の原則及び補充原則を遵守(コンプライ)するか、遵守しない理由を開示する必要がありますが、この補充原則に関しては、法律事務所等に外部窓口業務を委託することとし、かかる外部窓口の設置をもって「経営陣から独立した窓口の設置」を遵守(コンプライ)したと判断している企業も多いのではないでしょうか。

しかし、法律事務所等に外部窓口を開設すれば、それをもって、直ちに補充原則に「遵守(コンプライ)」したといえるのか、疑問がないわけではありません。

外部窓口となる法律事務所等自体は「経営陣から独立した窓口」に該当するといえるでしょう。しかし、その外部窓口が通報内容の匿名化だけを実施して、会社の内部窓口や内部通報制度の所管部門に、通報内容を"パス・スルー"するだけの体制である場合、その情報の実質的な受け手はその内部窓口・内部通報制度所管部門であるともいえ、「経営陣から独立した窓口」を設置したとは評価されない可能性もあるのではないでしょうか。例えば、経営陣の不正に関わるものが法律事務所等の外部窓口に通報されても、その通報内容が、経営陣からの独立性のない内部窓口・内部通報制度所管部門に報告され、これらの部門が通報への対応を行うこととなる場合、経営陣を対象とする適切な調査や是正措置は、余り期待できないといえます(少なくとも通報者は適切な調査や是正措置を期待しないでしょう)。

しかし、だからといって、上記補充原則の文理に忠実に従い、社外取締役・監査役(ないしはこれらの事務を所管する監査役室等。以下同じ)に通報窓口を開設し、社員からの通報や外部窓口からの通報報告を全て受け付ける体制にしたとしても、事業執行に携わらない社外取締役・監査役がその全ての通報に対応したり、調査を尽くすことは困難といえ、却って窓口が十分に機能しなくなるおそれがあります。

そこで、こうした点をどう解決するかが問題となるわけですが、法律事務所等に外部窓口を開設する場合には、外部窓口から会社に報告を行う際の報告先を、内部窓口・内部通報制度所管部門と、社外取締役・監査役というように、複数設定することが検討されるべきと考えます。外部窓口は、通報者とのコミュニケーションによって通報内容を的確に把握した上で、通報内容が経営に関わる重要な事案であれば社外取締役・監査役に報告し、現場レベルの事案であれば内部窓口・内部通報制度所管部門に報告するなど、通報内容に最も適した報告先を選択することとなります。当然のことながら、外部窓口には、このような判断を的確に行うために必要な専門的な知見と経験が求められることとなります。

企業は、法律事務所等に外部窓口を開設しただけで「コンプライ」したと安堵するのではなく、通報内容の報告先までを視野に入れて、CGコードへの対応状況を確認する必要があります。また、折角、設置した外部窓口ですから、その信頼性を社内外に積極的に広報することも重要だと思います。

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