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公益通報者保護特別委員会

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改正後の公益通報者保護法が履行されない要因(2024年1月号)

改正後の公益通報者保護法が2022年6月に施行されてから1年以上が経過しました。改正後の公益通報者保護法では、新たに、事業者に対し、従事者を指定する義務や、内部公益通報対応体制を整備する等の義務が、公法上の義務として課されました(同法11条1項及び2項)。

こうした義務の履行状況について、最近、民間機関(帝国データバンク)が調査を行いましたが、従業員301人から1000人の事業者の4割以上、従業員1000人超の事業者の約3割が改正後の公益通報者保護法に対応していないという結果が明らかになっています。従業員301人以上の事業者は従事者を指定する義務等が法的義務となりますので、多くの事業者において客観的に法令違反の状態が生じていることになります。

このように改正後も法令違反が生じている背景事情の一つとして、公益通報者保護法の違反に対する実効性担保措置に課題があるという見方もあります。改正後の公益通報者保護法では、上記事業者の義務の履行を担保するための措置として、消費者庁長官による助言・指導、勧告、公表が予定されています。こうした助言指導・勧告を前提とした措置ですと、現在において法違反の状態が生じていても、消費者庁から助言・指導、勧告が行われた後に法違反の状態を解消すれば何も問題がないと誤解する事業者も出てくるでしょう。また、近時、消費者庁が特定の事業者に指導を行った事実が公表された事案がありますが、こうした形で既に公表が行われた事案については、その後に勧告に従わなかったからとして「公表」されても実際は当該事業者に実質的なデメリットはなく実効性担保措置としては弱いといえます。
こうした実効性担保措置の弱さが事業者の義務の履行の懈怠に繋がっているとすれば、今後の公益通報者保護法の再改正の検討の際には、行政命令やこれに違反した場合の刑事罰等のより強力な実効性担保措置の導入を議論すべきでしょう。

なお、上記はあくまで行政による執行に関する話であり、公益通報者保護法上の義務の履行を懈怠した会社の役員の民事上の責任については、現在の法制においても生じる場合があるため、注意が必要です。すなわち、公益通報者保護法11条1項及び2項の事業者の義務は、「法令」上の義務であるところ、会社法上の役員は法令遵守義務(会社法355条)の内容として、会社を名あて人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべき全ての法令上の規定を遵守する義務を負っており(最二小判平成12年7月7日民集第54巻6号1767頁)、会社が公益通報者保護法上の義務を履行していないとすれば、役員には法令遵守義務の違反があるといえます。この状態において、不正を知った職員が法令に沿って内部通報制度を整備していない社内に通報することを躊躇し、法令違反の早期発見ができず、会社に損害が生じた場合には、役員は、法令遵守義務違反により生じた損害(場合によっては相当多額なものになるでしょう)について、会社法423条1項等に基づく損害賠償義務を負う可能性があります。役員だけではなく、従業員も懲戒処分などの対象となる場合があります。現時点においても、こうした民事上の問題があることから、適切に法に沿って内部通報制度を整備することは会社及び役員の身を守るためにも重要であるといえます。

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