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公益通報者保護特別委員会

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内部通報窓口を絵に描いた餅にしないために(2020年1月号)

最近では,「内部通報窓口」あるいは「公益通報」等の言葉を一度は耳にしたことがあるという方が非常に多いのではないでしょうか。そして,昨今に至っては,上場している大企業だけでなく,非上場の中小企業等においても,「内部通報窓口」を設けることが昔に比べて多くなってきた印象があります。
もっとも,その中で,実際に機能している「内部通報窓口」は,どれだけあるでしょうか。
先日,わたしは,外部弁護士として,中小企業において,社員向けのコンプライアンス研修を行いました。研修をするにあたって,当該中小企業の代表取締役の方を始めとする経営陣の方や社員の方と事前に打ち合わせをしたところ,「内部通報窓口」に関する規定は形だけ設けられているものの,実際は全く機能しておらず(運用実績はこれまで一度もない),内部通報がなされた後の流れ等の整備もなされていない(決まっていない)ということが判明しました。また,社員に対して「内部通報窓口」を周知することもしておらず,当該中小企業に「内部通報窓口」が設けられていることを認識している社員もほとんどいませんでした。当該中小企業において,「内部通報窓口」はまさに「絵に描いた餅」という状態でした。
これは,わたしが目にした中小企業の一例に過ぎませんが,このようなケースは決して珍しいことではないと思われます。
確かに,企業における「内部通報窓口」という制度の構築は,公益通報を促進するための足掛かりとなる重要な一歩といえますし,そのこと自体は評価に値することといえます。
しかし,一歩踏み出すだけでは,「公益通報の促進(ひいては社会正義の実現)」というゴールにたどり着くことはできません。
ゴールに近づくためには,次の一歩を踏み出す必要があります。
せっかく設けた「内部通報窓口」を「絵に描いた餅」にしないための方策としては,以下のようなものが考えられます。
①社内メーリスや朝礼の際等に案内するとともに,社員の目に入る場所にチラシを掲示する等して,社員に対し「内部通報窓口」の存在を周知すること
②当該内部通報窓口の担当者の属性(外部の法律事務所なのか等)を明らかにするとともに,内部通報がなされた後,その情報が誰にどのように伝達されることになるのか等のフローチャートを示すことで手続の透明性を確保すること
③内部通報者の匿名性が確保されるとともに内部通報者が不利益な取り扱いを受けないことを定める規定を示す等して,内部通報者が保護されていると安心させること
このように,今後は,「内部通報窓口」の整備を進めるとともに,社員に対して当該窓口の存在を周知して,透明性・信頼性のあるものにしていくことが不可欠といえます。

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