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公益通報者保護特別委員会

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改正公益通報者保護法において、事業者側に課せられる守秘義務について(2021年5月号)

2020年6月12日に公布された改正公益通報者保護法(以下「改正法」といいます。)の大きな目玉の一つは、企業内において公益通報対応業務を担当する担当者(過去に当該業務を担当していた者も含む)に、公益通報対応業務で知り得た事項であって公益通報者を「特定させる」ものを漏らしてはならない、という法令上の厳格な守秘義務を課したこと(改正法12条)、更にはその違反に刑事罰(30万円以下の罰金)を定めたこと(改正法21条)です。

改正法により、通報者がより安心して通報制度を利用できるようになったという観点では、通報制度の利活用にとって非常に大きな前進といえるでしょう。

他方で、内部通報制度を運用する企業においては、通報対応業務を取り扱う担当者が萎縮しないような制度設計を慎重に検討する必要があります。通報者の特定につながり得る情報の管理を徹底することはもちろんですが、それでも万が一にでも通報者の特定につながり得る情報が漏洩すれば、担当者は通報者から刑事告訴をされるというリスクと、常に隣り合わせになるからです。

特に、実務上、ハラスメント事案においては、被害者が通報者になることも多く、その場合、加害者や関係者にヒアリング調査をすれば、ヒアリング内容から、(当該調査が通報をきっかけにしたものであると示さなくとも)自ずから通報があったこと、そして被害者が通報したことが事実上、分かってしまうケースが多々あります。

加えて企業の中には、ハラスメント通報窓口を設け、そこに窓口担当者の部署や氏名を掲載している場合もあり、その場合には、その担当者が加害者にヒアリングをすれば、ハラスメント通報窓口への通報があったことが自ずから明らかになり、被害者が通報者であることを事実上、推測されてしまうことも考えられます。そこで、内部調査の必要性と通報者の特定を避ける必要性のジレンマに陥ることになります。

一つの解決策としては、特に、ハラスメント事案の通報がなされた時は、通報者に対して、ヒアリング調査の過程で通報者が特定されるリスクがあることを丁寧に説明したうえで、通報者に調査をどの範囲で進めるかについて(どの関係者であれば、ヒアリングをして良いか等)、逐一、協議して同意をしてもらったうえで、調査を進めることが考えられます。この同意は、電子メールや書面など客観的に形に残る形で取得しておく方がよいと考えられます。

この点、2021年3月25日付で消費者庁のウェブサイトに掲載されている「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会報告書(案)」(17頁)にも、「従事者が公益通報者を特定させる事項を漏らしたことについて『正当な理由』がある場合には法第12 条の違反とはならない。『正当な理由』がある場合とは、...例えば、公益通報者本人の同意がある場合」であるとされ、「なお、特に、ハラスメント事案等で被害者と公益通報者が同一の事案においては、公益通報者を特定させる事項を共有する際に、被害者の心情にも配慮しつつ、書面によるなど同意の有無について誤解のないよう、当該公益通報者から同意を得ることが望ましい」とされています(㊟ハラスメント事案の通報が全て改正法の適用を受けるとは限りません)。

企業側における公益通報対応業務の担当者が、刑事罰付きの守秘義務を負うことになることで、担当者が委縮する、あるいはそもそも担当者への就任を躊躇するという事態を避けるため、改正法が施行されるまでに、企業側で具体的な制度設計を検討する必要があるでしょう。

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