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公益通報者保護特別委員会

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公益通報を行い得る主体(2023年5月号)

 公益通報者保護制度とは、企業の不祥事によって国民の利益が害されることを防止するために通報を行った者が、事業者から不利益な取扱いを受けないよう、通報者を保護する制度です。本コラムでは、そもそも保護の対象となる公益通報を行い得る主体は誰であるのかというテーマを取り上げます。
 「企業の不祥事」や「事業者から不利益な取扱い」といった文言から、①労働者(公益通報者保護法2条1項1号)が公益通報の主体に含まれることは予想の付くところかと思いますが、そのほかにも、②派遣労働者(同項2号)、③退職者(同項1号、2号)、④取引先の労働者等(同項3号)、⑤役員(同項4号)が公益通報の主体として想定されています。また、一口に「労働者」と言っても、その範囲は広く解されています。

① 労働者
 公益通報者保護法2条1項1号は、「労働者」について、労働基準法9条所定の「労働者」と同義である旨規定しています。そのため、「職業の種類を問わず、事業又は事業所...に使用される者で、賃金を支払われる者」が、公益通報の主体となり得ます。  
 具体的には、正社員のみならず、パートタイマーやアルバイトも「労働者」に含まれ、また、公務員であっても原則として「労働者」に該当すると解されています。

② 派遣労働者
 派遣労働者とは、事業主に雇用された者で、派遣先の指揮命令に従って派遣先の労務に従事する労働者をいいます。雇用関係は、あくまで派遣元事業者との間で生じているに過ぎませんが、労務提供先である派遣先において生じた通報対象事実に関して公益通報を行うことができると解されています。
 なお、派遣労働者も「労働者」(①)に含まれ、公益通報者保護法2条1項1号と同項2号の重複が生じうることから、同項1号は、通報先の事業者から派遣先を除外しています。

③ 退職者
 現に事業者に雇用されている者に限らず、労働者であった者又は派遣労働者であった者についても、退職後1年以内であれば、公益通報の主体に含まれます。実態として、退職者からの通報が多い一方、通報を行った退職者が不利益取扱いを受ける例等も存在することから、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(2020年6月12日公布、2022年6月1日施行)(以下「改正法」といいます。)によって新たに追加されました。

④ 取引先の労働者等
 委託元との契約(請負契約、物品納入契約、継続的顧問契約など)に基づいて事業を行う場合において、当該事業に従事する委託先事業者の労働者、派遣労働者又は退職者(退職後1年以内)も、公益通報の主体に包含されます。
 委託元と継続的な取引関係にある、委託先で委託に係る業務に従事する労働者等は、委託元における不正を知り得る立場にあります。通報を理由として当該労働者等の契約が解除されたり、取引数量が減じられたりするなどの不利益取扱いがなされ得ることから、取引先の労働者等も保護の対象とされました。

⑤ 役員
 「役員」とは、取締役や監査役等の法人の経営に従事する者を指します。
 役員は、会社に対して善管注意義務(会社法330条、民法644条)・忠実義務(会社法355条)を負い、自ら不正を是正すべき立場にあること、及び選解任は法定の株主総会決議によって行われること(会社法329条、339条)を理由に、解雇等の不利益取扱いの保護対象に含まれていませんでした。しかし、役員は、一般的な労働者と比較して、事業者の重大な不正を知り得る地位にあり、その通報が有する意義も高い等の理由から、改正法により、公益通報の主体に組み込まれることになりました。

 以上見てきましたように、改正法により公益通報を行い得る主体は広がっています。制度利用の検討にあたり、参考になれば幸いです。

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