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公益通報者保護特別委員会

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公益通報者保護法が改正されました

 本ブログの前号でも触れましたとおり、公益通報者保護法(平成十六年法律第百二十二号)(以下「法」といいます。)の見直しが行われていたところ、衆議院では、附則で「5年後の見直し」とされていた箇所について、「3年後の見直し」と修正された上で、令和7年4月24日、全会一致で可決されました。
 そして、令和7(2025)年6月4日、公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和7年第62号)(以下「令和7年改正」といいます。)が成立しました。 
 改正法の施行は、公布日(令和7年6月11日)から1年6か月以内で政令で別途定める日とされており、令和8(2026)年中の施行が見込まれます。

<改正事項>
 今回の改正は、前回の令和2(2020)年改正時の附則や附帯決議を踏まえて消費者庁において各種実態調査・裁判例分析・海外法制度調査が行われ、有識者による検討会での議論を踏まえて実現に至ったものであり、一定の評価ができるものと思われます。

改正のポイントは、これまでのブログでも触れていたとおり、 以下8点ほどあります。

〇消費者庁による法執行/行政措置権限の強化
・勧告に従わない場合の命令権及び命令違反時の刑事罰規定導入(30万円以下の罰金、両罰規定あり)
・立入検査権限を新設するとともに、報告懈怠・虚偽報告、検査拒否に対する刑事罰規定導入(30万円以下の罰金、両罰規定あり)
〇周知義務の明示
(法定指針上の義務から、法律上の義務へ)
〇通報主体の範囲拡大
(「公益通報者」の範囲を、フリーランス新法のフリーランスにまで拡大)
〇通報者を探索する行為を禁止し、これに違反してされた合意等の法律行為を無効
(法定指針上の「通報者の探索を行うことを防ぐための措置」「探索時の...懲戒処分その他適切な措置」義務から、法律上の「行為の禁止」規定・違反合意無効へ)
〇通報者を妨害する行為の禁止
(法の趣旨の明確化)
〇公益通報を理由とする解雇又は懲戒をした者に対し、直接的な刑事罰の導入
・6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、両罰規定あり
・法人に対する法定刑は3,000万円以下の罰金刑
〇立証責任の転換(推定規定の導入)
(通報から1年以内に、「解雇等特定不利益取扱い」(=解雇・懲戒処分)がなされた場合、公益通報をしたことを理由としてされた不利益な取扱いであるとの推定規定)
〇国家公務員等に対する不利益な取扱いの禁止と、これに違反した者への直接的な刑事罰の導入

<残された課題>
 他方、課題もあります。消費者庁の公益通報者保護制度検討会終了後、令和6年12月27日付けで公表された「公益通報者保護制度検討会報告書-制度の実効性向上による国民生活の安心と安全の確保に向けて-」においても、いくつかの論点は「引き続き対応を検討すべき」と位置づけられるなどしており、国内の実態の把握、海外法制度・実態の調査、次の改正に向けた丁寧な検討が求められます。
 法の趣旨からすれば、令和7年改正の次の改正でさらなる改正が求められる事項もあり、この点については東京弁護士会の意見書に記載のとおりです。

 以下、重要な事項を改めて示します。

〇立証責任の転換(推定規定)の範囲の拡大
 立証責任の転換(推定規定)の新設は実現しました。しかし、立証責任の転換規定が適用されるのは、"事業者が、通報から1年以内に、通報者の解雇や懲戒処分をした場合"に限られます。"通報をしたことを理由として、会社が、配置転換(社内異動)を命じたり、出向を命じたりする"といったことまでは、立証責任の転換の対象にはなっていません。実際には、通報をしたことを理由とする配置転換命令なども多いと考えられ、期間制限の年数含め、更なる実態把握・検討が求められるのではないでしょうか。

〇従事者指定義務および体制整備等義務につき法的義務を負う事業者の範囲の拡大
 法は、「常時使用する従業員が301人以上」の事業者に対し、従事者指定義務および体制整備等義務を課しています(中小企業は努力義務)。しかし、制度の実効性向上、通報者保護の観点からは、体制整備義務の対象となる事業者の範囲を、常時使用する労働者の数が 300 人以下の事業者にも拡大すべきではないでしょうか。

これらに加え、
〇公益通報者となり得る者の範囲の拡大(退職者の期間制限「1年」要件の撤廃、「取引先事業者」(法人)の追加)
〇通報対象事実の範囲の拡大
〇公益通報を理由とする不利益な取扱いに対する刑罰に係る対象範囲の拡大(解雇又は懲戒以外の行為も追加するか等)
〇公益通報が刑罰法規に抵触する場合の刑事免責
〇行政措置権限の範囲の拡大
〇いわゆる濫用的通報への対応

などについて、引き続きの実態把握・検討が必要です。

<施行日まで>
 改正の前後を問わず、事業者が負う【従事者指定義務】や【体制整備義務】の具体的な内容が、法11条4項に定める法定指針(法規的告示)に委任される、という建付けに変化はありません。ただ、今回の改正では、現行の法定指針の規定事項が、法律事項に格上げされる改正が含まれていることもあり、おって、「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年8月20日内閣府告示第118号)の改正がなされることも見込まれます。
 施行日の確定、法定指針の改正、国民への周知等を含めた施行準備が遺漏なく行われるよう、政府の動向を引き続き注視してまいりましょう。

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