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第51回 古くてあたらしい憲法のはなし⑰「多様性」を認めることこそ憲法の理念~同性婚と夫婦別姓を例に~
弁護士 津田二郎(憲法問題対策センター副委員長)
同性婚や夫婦別姓の議論をしていると、「多様性の社会なんだったら、同性婚(夫婦別姓)を認めない人のことも認めて欲しい」、「『多様性』と言いながら、同性婚(夫婦別姓)を認めない人を社会から排除しようとしている」などという意見が聞かれることがあります。「多様性」はどのように理解したらよいのでしょうか。
現在の民法に定められた婚姻制度(以下、「法律婚」)は、「男女」の組み合わせで、夫婦の姓(氏)を同一にすることを前提にしている点*1で、「同性婚」や「夫婦別姓」を望むカップルを婚姻制度から排除していると見ることができます。
そもそも日本国憲法は、個人の尊重(第13条*2)、思想・良心の自由(第19条*3)、表現の自由(第21条1項*4)、法の下の平等(第14条1項*5)など、一人一人に違いがあることを前提にして、自由と平等を基礎にしています。つまり日本国憲法は、国民の中に文字どおり多様な価値観が存在することを前提とした国づくりをしているのです。
先に指摘したように現在の法律婚制度は、結婚に際して、男性又は女性のいずれか一方が必ず氏を改めなければなりません。形式的には男女のどちらの姓も選ぶことはできますが、現実には、男性の姓を選び、女性が姓を改める例が圧倒的多数です*6。ところが、女性の社会進出等に伴い、改氏による職業生活上や日常生活上の不便・不利益、アイデンティティの喪失など様々な不便・不利益が指摘されてきたことなどを背景に、選択的夫婦別氏制度の導入を求める意見がでてきました。
このような状況を踏まえて、1996年2月に法制審議会は選択的夫婦別姓の導入を答申し、法律案を作成したこともありました*7が選択的夫婦別姓は実現していません。
現在の法律婚制度の下でも社会的には旧姓(通称)使用が広まっていますし、旧姓使用に法的効果を与えればよいという意見もあります。このように旧姓使用が事実上広がり、法的効果を与えることも認めるのであれば、別姓夫婦の存在が社会で認められそれが法的に認められることになるのですから、夫婦別姓を望むカップルを法律婚から排除しなければならない必要性がそもそもないか、あっても希薄だということができます。
また同性婚については、6つの高裁判決のうち5件が、憲法第13条「幸福追求権」、第14条「法の下の平等」、第24条1項「婚姻の自由」、同条2項「個人の尊厳」*8のいずれか、あるいは複数の条項に違反するとして違憲判決を出しています*9。
このように同性婚や夫婦別姓を望むカップルを法律婚から排除してまで守られなければならない利益はもはやないといってもいいと思います。
それでは多様性に「夫婦別姓・同性婚を認めない」という立場は含まれないのでしょうか。
確かに自分が「夫婦別姓・同性婚を認めない」という考えを持つこと自体は、その人の内心に留まる限りは否定されることはありません。つまり「自分は違う」と考えることは誰にでも認められてしかるべきです(思想良心の自由。憲法第19条)。
しかし、「多様性」とは、「様々異なる価値観が共存する」という状態ですから、社会制度はできる限り多様な価値観が共存できるように工夫されなければなりません。多様性を前提にした憲法のもとでは、少なくとも「全国民の代表」である国会議員*10が、「誰かを排除する」制度であることに気づいたなら、個人の信条はともかく、その誰かを排除したままの制度にしておくことは誤りです。
現在当事者が要望している同性婚や夫婦別性は、現在の法律婚制度が異性婚かつ夫婦同姓のみに認められる法律婚の効果を、同性婚、夫婦別性を望むカップルにも、それぞれ法律婚の効果*11を認めて欲しいというものです。これは異性婚や夫婦同姓を望む人たちのことは排除せずに、法律婚制度に自分たちの願いを取り込んで欲しいというものですから、まさに多様な価値観が共存する社会制度を望むものです。一方で、法律婚には同性婚や夫婦別姓を含めないという考え方は、そうした願いを持つ人を結論において排除するものですから、憲法の価値観とは相容れないということになります。
人権の考え方は、突き詰めると「多数派から少数派を守る」ことに要点があります。国民の多数派と違う考え方だからこそ、それを認めて守る必要があるのです。全国民の代表者である国会議員は、国民の中の多様性に思いを致し、多数派の意見を取り入れるだけでなく「誰かを排除する」ことのないように立法する責任があります。仮に議員自身は異性婚かつ夫婦同姓に疑問がないとしても、法律婚から同性婚や夫婦別姓を望むカップルが排除されている現状では、その希望に添うような法律婚制度を創意工夫をこらして作る必要があると思います。
また私たち自身も、社会の構成員として、自分と違う立場、考え方の人の存在を認めあい(寛容)、生きあって(共生)いきたいものだと思います。
*1 夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する(民法750条)。婚姻後に夫婦が称する氏については、届書に記載して届け出なければならない(戸籍法74条1号)。
*2 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
*3 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
*4 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
*5 すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
*6 厚生労働省が取りまとめた「人口動態統計」によれば、夫の氏を選択する夫婦の割合は以下のとおりです。(出典 法務省 選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について 「Q4 夫の氏にする夫婦の割合はどれくらいですか。」)
令和元年 約95.5%
平成27年 約96.0%
平成22年 約96.3%
平成17年 約96.3%
平成12年 約97.0%
平成 7年 約97.4%
*7 法務省 選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について 「検討経過等 平成22年に準備された改正法案(氏に関する部分)の骨子」[PDF])
*8 第24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
*9 例えば、日本経済新聞2025年3月25日付「同性婚認めぬ規定、5高裁すべて「違憲」 一審合憲の大阪も」、朝日新聞2025年11月28日付「同性婚認めないのは合憲 二審判決6件そろい、唯一の合憲 東京高裁」
*10 憲法第43条1項 両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。
*11 法律婚の効果 法律婚制度によって多くのメリットが与えられています。これらのメリットは事実婚ではほとんど享受できません。
財産権:法律婚では配偶者に法定相続権が発生するほか、婚姻費用の分担義務、離婚時の財産分与の権利などが認められます。
家族関係:子の共同親権、成年後見開始審判の申し立て、配偶者の日本への帰化の特例の適用、「日本人配偶者等」在留資格による入国が認められます。
制度的カバー:配偶者控除や遺族年金、犯罪被害給付金(遺族給付金)、慶弔見舞金制度、育児休業などの制度は、基本的に法律婚を前提に設計されています。
税制上の有利:法律婚の配偶者は所得税の配偶者控除・配偶者特別控除や相続税の配偶者控除が認められます。
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