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第50回 古くて新しい憲法のはなし⑯「台湾有事は存立危機事態」とした高市発言の問題は(2026年1月号)
弁護士 津田二郎(憲法問題対策センター副委員長)
2025年11月7日の衆議院予算委員会で、高市早苗首相が、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたる具体例を問われ、台湾有事について「戦艦を使って、武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になりうるケースだと私は考える」と答弁した(以下、「高市発言」)ことが大きく報じられました*[1]。
そもそも政府は、これまでも憲法9条のもとであっても日本が他国から武力攻撃を受けた場合には必要最小限度の実力行使は許されるという立場を長い間とっていました(個別的自衛権)。
ところが2015年に成立した安保関連法制では、日本が武力攻撃を受けていない場合(個別的自衛権の行使ができない場合)でも、「日本と密接な関係にある国が武力攻撃を受け、そのまま放置すれば日本の存立が脅かされ、国民の生命・自由が根底から覆される明白な危険がある場合」(存立危機事態)には、日本が武力行使ができる(集団的自衛権)とされました*[2]。
これまで政府は、とりわけ台湾有事をめぐる議論では、具体的なケースを挙げることを避け、「総合的に判断する」という態度をとっていました。今回の高市発言は、このような政府の立場を転換したと内外に受け取られました。
高市首相の発言が、これまでの政府の立場を転換したとみられるのは次の点です。
①中国と対立する立場をとる印象を与えたこと
例えば安倍政権下では、政府は「台湾が該当するかはお答えを差し控える」と繰り返していました。それに対して今回の高市発言は、台湾有事が存立危機事態になりうる具体例であることを明確にしたために、日本が中国と対立する立場をとるかのような印象を内外に与えました。
②日本が武力紛争の当事国になることを宣言したこと
高市発言は、台湾有事が存立危機事態になりうる具体例であることを明確にしたことによって、日本が直接武力攻撃を受けなくても武力紛争に加わる当事国になることを宣言したと受け取られたのです。
高市発言は、中国に対して「喧嘩を売った」だけでなく、憲法9条のもと、「平和国家」として戦後国際社会に復帰した日本が、その平和路線を変更したと受け取られかねない重大な問題を含んでいました。これが高市発言が大きく注目された理由です。
高市発言に対して、中国は猛烈に反発して発言撤回を要求し、日本産水産物の輸入停止や渡航制限などの圧力を強化するなど緊張感が高まっています。日本が、その最大の貿易相手国であり、輸出額の18%、輸入額の23%を占める(2024年)といわれる中国との関係を悪化させたことによって、既に経済には深刻な悪影響が出始めています。
確かに中国は、南シナ海や台湾に関する領土問題で強硬な姿勢をとり周辺諸国との摩擦を強めている点で批判があり得るところです。しかしそのことは、日本が平和国家路線を転換し武力紛争の当事国になることを正当化しません。高市発言によって日中関係の緊張が高まりましたが、当の台湾を含むアジア諸国はこの状況を必ずしも歓迎しておらず、かえって東アジアの国際関係に緊張感が増しています。
外交の基本は「他国に揚げ足をとられることなく、他国に戦争の口実を与えないこと」にあるはずです。外交問題に関する発言は、不用意に国家間の緊張を高めることのないように慎重さが求められるのです。
高市発言は、勇ましく聞こえる一方、アジアの緊張を高め日本の平和を揺るがした点に問題があるのです。
*[1] 例えば2025年11月7日付朝日新聞『高市首相、台湾有事「存立危機事態になりうる」 武力攻撃の発生時』
*[2] 安保関連法制の問題点は、例えば東京弁護士会2015年9月19日付「安全保障法制改定法案の参議院強行採決と法案成立に抗議し、違憲・無効な法律の速やかな廃止を強く求める会長声明」、2025年9月19日付「安保法制成立後10年経過にあたり、改めて同法制が違憲であることを確認する会長声明」
