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- 通報窓口の利用者に知っておいていただきたいこと―社外窓口担当者の視点から―(2025年12月号)
- 2025年6月11日公布の公益通報者保護法改正により、公益通報者の範囲にフリーランスが追加されました。(2025年9月号)
- 公益通報者保護法が改正されました
- 政府が公益通報者保護法の改正案の骨子を示しました(2025年3月号、2025年5月更新) 【法案の閣議決定(3月4日)及び衆議院通過(4月24日)を踏まえて更新しました】
- 令和7年4月15日、第217回国会衆議院本会議において、公益通報者保護法の一部を改正する法律案に関する審議が始まりました。(2025年4月号)
- 公益通報者保護検討会報告書等の公表について(2025年1月号)
- 不正を見逃さない!実効性ある内部通報窓口とするために(2024年11月号)
- 公益通報制度の実効性向上に向けて(2024年10月号)
- 公益通報者保護検討会~法改正に向けて~(2024年7月号)
- 内部通報制度の社内周知と認知度の向上について(2024年5月号)
- 公益通報に関する情報を守るための具体策(2024年4月号)
- 改正後の公益通報者保護法が履行されない要因(2024年1月号)
- 内部通報制度とグリーバンスメカニズム(2023年11月号)
- 中小事業者における通報対応の体制整備について(2023年6月号)
- 公益通報を行い得る主体(2023年5月号)
- 公益通報制度を有効な制度とするために(2023年2月号)
- 欧州での公益通報者保護法制に関する動き(2022年11月号)
- 内部通報制度と持続可能性(サステナビリティ)(2022年9月号)
- 公益通報制度の活用について(2022年7月号)
- 内部通報制度認証(自己適合宣言登録制度)の見直し(2022年5月号)
- 社内通報窓口の整備(2022年4月号)
- 「第二の窓」が広がる年(2022年1月号)
- 公的通報における通報者の保護の重要性(2021年11月号)
- 公益通報を受けた行政機関の対応について(2021年6月号)
- 改正公益通報者保護法において、事業者側に課せられる守秘義務について(2021年5月号)
- 事業者に求められる公益通報対応の体制整備について(2021年3月号)
- 改正公益通報者保護法に基づく指針の検討状況等について(2021年1月号)
- 「アフターコロナ・東証市場再編でのガバナンス体制と内部通報制度を考える」(2020年11月号)
- シンポジウム開催のご報告(公益通報者保護法改正関連)(2020年7月号)
- 内部通報窓口を絵に描いた餅にしないために(2020年1月号)
- 社内通報窓口担当者の皆さまへ2(2019年12月号)
- 「不都合な事実を歓迎する」ということ(2019年10月号)
- 内部通報制度を広く浸透させるために(2019年6月号)
- 居心地のよい社会の実現に向けて(2019年4月号)
- 公益通報者保護に関する最近の動き(2019年2月号)
- 内部通報制度と認証制度について(2018年12月号)
- コーポレートガバナンス・コード対応としての内部通報外部窓口の設置(2018年11月号)
- 社内通報窓口担当者の皆さまへ(2018年8月号)
- グループ会社などで働く皆さんへ~グループ会社等を含む一元的窓口への通報という選択肢~(2018年7月号)
- グループ会社の社長、役員、内部通報制度の実務を担う方々へ~社内内部通報制度、見直しのすゝめ~(2018年3月号)
- 昨今のデータ改ざん問題について(2017年11・12月号)
- 緊急開催!加計学園問題を契機としたシンポジウム(2017年9・10月号)
- 効果的な通報窓口のすヽめ(2017年8月号)
- 内部通報を明るくするための一工夫(2017年7月号)
- 通報者に対する不利益な取り扱いの禁止とガイドラインの改正(2017年6月号)
- 内部通報制度に関する民間事業者・労働者の実態調査について(2017年5月号)
- 通報窓口の「窓」のいろいろ(2017年4月号)
- 「内部告発」の意義を四文字熟語で言い表すと(2017年3月号)
- 公益通報者保護法ガイドラインの改正(2017年2月号)
- 通報窓口に通報がない会社は良い会社なのか?(2017年1月号)
- 事業者が公益通報窓口を設置するにあたって(2016年12月号)
- 公益通報って「社会」にとって良いもの?悪いもの?(2016年11月号)
- 「おせっかい」で、正義感にあふれた暖かみのある社会を~「いじめ」に見て見ぬふりは「もやもや」が残りませんか(2016年10月号)
- 公益通報制度の目的ってなんですか?(2016年9月号)
- 公益通報の具体例:入札談合(2016年8月号②)
- 公益通報の具体例:虚偽の広告・表示問題(2016年8月号①)
- セクハラは公益通報者保護法の対象となるか(2016年7月号)
- 通報窓口を設置する側のメリット(2016年4月号)
通報窓口の利用者に知っておいていただきたいこと―社外窓口担当者の視点から―(2025年12月号)
1. はじめに
弁護士は、企業・団体等(以下「企業等」といいます。)が外部に設置した内部通報窓口(以下「社外窓口」といいます。)を担当することがあります。今回のブログの記事では、社外窓口担当者の視点から、通報窓口の利用者に予め知っておいていただきたい点、留意していただきたい点についてご紹介いたします。
なお、本記事の内容はあくまで一般論です。内部通報制度の内容や運用等は企業ごとに異なりますので、実際の内部通報窓口に通報又は相談(以下、通報と相談をあわせて「通報等」といいます。)に当たっては、ご自身の勤務先等の体制や運用を十分ご確認ください。
2. 前提として――社内窓口と社外窓口の違い
企業等が設置する内部通報窓口【1】には、企業等の内部に設置される通報窓口(社内窓口)と企業等の外部に設置される窓口(社外窓口)の2種類があります。両窓口の違いは、端的に言えば、窓口担当者が社内か社外かによります。
社内窓口は、多くの場合、企業等の法務又はコンプライアンスの所管部署が担当しています(人事部が担当している企業等もあります。)。その担当部署は、社内窓口への通報又は相談があれば、通報者又は相談者(以下、通報者と相談者をあわせて「通報者等」といいます。)から話を伺い、通報等の内容と通報者等を特定する個人識別情報が社内の他の部署に漏洩しないように慎重な注意を払いつつ必要な調査を行い、その結果として違法若しくは不適切な問題、又はそのリスク状態の存在が確認された場合には、その防止・是正措置の実施などを行います。
他方で、社外窓口は、多くの場合は、当該企業等の外部の法律事務所又は委託先企業が担当しています。そのような社外窓口が通報等を受けた場合の対応は、企業等によって異なるところですが、社外窓口担当弁護士(又は担当者)は、企業等の内部の部署(内部通報の担当部署)に通報等の内容を必要に応じて匿名化した上で共有することまでが担当業務であり、その後の通報等事案の具体的な調査及び問題の防止・是正措置の実施などは当該企業等の内部通報の担当部署が行なうケースが多いように思います。この場合における社外窓口の役割は、①当該企業等における内部通報制度の概要(通報等として受理可能な範囲、通報後の対応の流れ等)を通報者等に説明すること、②(特に匿名性に懸念を有する)通報者等の心理的負担を企業等の内部組織である社内窓口に連絡する場合に比べて軽減すること、③通報等の内容を整理して(弁護士の場合は、必要に応じて法的意見を添えて)内部通報の担当部署に報告して共有し、通報等の対応(問題状況の発見と是正等)の円滑化を図ることなどが挙げられます。
【1】通報窓口には、企業等が自ら設置する通報窓口の他に、行政機関等が独自に設置する公益通報窓口があります。
3. 窓口担当者には、基礎的な情報からご説明いただく必要がある点
まず知っておいていただきたいのは、特に社外窓口の担当者は当該企業等の外部者であるために、当該企業等について何でも知っているとは限らない点です。特に、当該企業等がグループ全体向けの社外窓口を設置している場合、通報者等には、どの会社に属しているかといった基礎的な事項から説明していただくことになります。また、拠点名、部署名、役職名、組織構成(組織図)についても、外部窓口の担当者が必ずしも知っているとは限りません。そのため、通報者等においては、社外窓口の担当者に対して丁寧に(詳細に)説明していただく必要があります。なお、社内窓口についても、窓口担当者が当該通報等に関係する部署等について必ずしも詳しいとは限りません。
通報者等と窓口担当者との間で、通報に関係する企業等の名称、部署名、関係者の役職等といった基礎情報にもし齟齬や誤りが生じれば、せっかく通報等をしていただいたとしても適切・円滑な対応ができない可能性があります。そのため、通報等をしていただくに当たっては、窓口担当者に対して基礎的な情報から丁寧にお伝えいただく必要があることに、ご留意いただければと思います。
内容にもよりますが、仮に電話での通報等の場合、窓口担当者に通報等の内容を伝えようとすると、1時間程度は時間がかかると思っていただいた方が良いと思います。また、メールでの通報等であれば、窓口担当者からの詳細を尋ねる細かな質問に回答する必要があると思っていただければと思います。
4. 要望(通報等の趣旨)の具体化
通報者等の要望には様々なものがあります。例えば、次のようなものが挙げられます。
① 会社で納得のいかないことがあった。現時点で問題として対応してもらう必要はないが、(今後通報等をするかもしれないため)知っておいて欲しい。
② 会社で違法又は不適切なことが起こっている可能性があるため、その状況を是正して欲しい。
③ 不適切な状況の是正だけでなく、不適切なことをした者に対して懲戒処分等の社内処分をして欲しい。 など
通報者等の要望がこれらのどれであるかによって、企業等の今後の対応には差が生じ得ます。そのため、通報等をされる際には、ご自身の要望(通報等の趣旨)がどこにあるのか検討していただければと思います(通報窓口の担当者から質問をされる可能性があります。)。
5. 社外窓口が、通報者等の代理人に就任できるか、法的見解を述べることができるか
上記4に関連して、社外窓口が法律事務所である場合、通報者等から、「会社での問題について自分を守って欲しい(代理人になって弁護して欲しい)」、「これは違法だと思うが弁護士の見解を教えて欲しい」といった要望を受けることがあります。
しかし、社外窓口を担当する弁護士の立場は、その窓口を担当していない法律事務所、弁護士会相談センター、行政窓口等の担当者として相談を受ける場合等とは異なっています。
社外窓口を担当する法律事務所は、基本的に当該企業等から依頼を受けてその職務を担当しています。当該企業等が法律事務所に社外窓口担当を依頼する目的は、社内において違法・不適切な事態が存在する場合に、それを一刻も早く探知して早期に是正することなどにあり、それは当該企業等の利益を目的とするものです。したがって、社外窓口を担当している以上、弁護士の職務のあり方を規制する「弁護士職務基本規程」というものの定めに照らし、通報者等と当該企業等の利益が対立しうるようなことにまで職務として介入することはできません。例えば、「未払賃金が発生しているため会社に支払って欲しい。」との内容の通報があったとします。社外窓口の担当者は、企業等の内部の部署(内部通報の担当部署)にその通報内容を伝え(ただし、それ以外の部署に伝えてはならないという意味での守秘義務は負います。)、当該部署が通報内容を踏まえて未払賃金の発生の有無を調査し、実際に未払賃金が発生していればそれが支払われることが考えられます。しかし、社外窓口の担当弁護士は、通報内容を企業等の内部の部署(内部通報の担当部署)に伝えることを超えて、当該通報者等を代理して会社に対して未払賃金の支払を請求することまではできません。
また、通報者等が依頼者でない以上、社外窓口の担当弁護士が独自に(依頼者である企業等の意向を確認せずに)当該通報者等に対して法的な見解を述べることは、できない可能性が高いと思われます。例えば、通報者より「未払賃金が発生しているか社外窓口の弁護士の見解を知りたい。」との要望を受けても、社外窓口の担当弁護士は応じられない可能性が高いと思われます。
したがって、法律事務所である通報窓口に連絡をしたからといって、当該窓口の担当者である弁護士が通報者等の代理人になるわけでもなく、その弁護士の法的見解を聞くことができるわけでもないことに、留意していただければと思います。
6. 匿名により調査等が困難となる可能性があること
匿名性は多くの通報者等が気にするところです。通報者等の匿名性を維持するためには、通報者等自身の氏名、役職、所属部署等の通報者を直接的に特定させる情報はもちろん、他の情報とあわせて通報者を特定しうる情報を秘密にする必要があります。
この通報者を特定しうる情報は、広範にわたることも少なくありません。そのため、外部窓口担当の弁護士等と、企業等の内部窓口担当者は、いずれも通報者等が個人として特定されるような情報の取扱いには非常に慎重になることを求められます。しかし、効果的な社内調査を行うためには、ある程度は調査対象を絞り込んだ調査を行わざるを得ず、通報者等の個人識別情報等を口外せず、関係者のヒアリングを行っただけであっても、結果として、通報者等が特定されてしまう可能性は完全には否定できません。
他方、外部窓口の担当弁護士等が、通報者等の匿名性を完全に維持しつつ通報内容を企業等の内部の部署(内部通報の担当部署)に共有しようとすると、通報内容のほとんどを共有できず、結果、通報内容を踏まえた調査自体を実施できないこと、調査を実施できたとしても不十分にならざるを得ないこともります。
このように、匿名性と調査の実施可能性・十分性は相反する関係性にあることを知っておいていただければと思います。ただし、調査の実施可能性・十分性は、特に通報等の内容によるところであり、匿名性を解除しても調査困難な場合も当然あり得ることも、あわせてご留意いただければと思います。
7. おわりに
以上は、企業等の通報窓口を担当する執筆者が、社外窓口担当者の視点から、日々の業務の中で内部通報窓口の利用者に知っておいていただきたいこと等を記載したものです。本稿が通報制度に対する理解に役立ちましたら幸いです。
以上
