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- コラム「憲法の小窓」
- 第60回 死者の復員 戦死者の復員業務懈怠と靖國神社合祀のカラクリ(2026年8月号)
- 第59回 日の丸を燃やしてはいけないの?Part 2(2026年7月号)
- 第58回 最低賃金の季節がやってきた!--「最低賃金額の大幅な引上げを求める会長声明」について(2026年7月号)
- 第57回 古くてあたらしい憲法のはなし⑱「世界情勢が変わったから憲法9条も変えなければならない」のか ~世界はまだ憲法9条に追いついていない~(2026年5月号)
- 第56回 憲法記念日の街頭宣伝行動のご報告(2026年5月号)
- 第55回 「解散」は首相の専権事項とはこれ如何に(2026年3月号)
- 第54回 靖國神社を巡る東弁会長談話(2026年3月号)
- 第53回 1月5日に伊勢神宮を参拝した高市総理大臣の問題は(2026年2月号)
- 第52回 中国が台湾を武力攻撃しても法理論的にはどう考えても存立危機事態にはなり得ない(2026年2月号)
- 第51回 古くてあたらしい憲法のはなし⑰「多様性」を認めることこそ憲法の理念~同性婚と夫婦別姓を例に~
- 第50回 古くて新しい憲法のはなし⑯「台湾有事は存立危機事態」とした高市発言の問題は(2026年1月号)
- 第49回 加藤陽子教授「近代日本の戦争を戦後80年の地平から考える」を聴講して ~憲法講演会報告~(2025年12月号)
- 第48回 人権擁護大会プレシンポジウムのご報告(2025年12月号)
- 第47回 古くて新しい憲法のはなし⑮「治安維持法制定から100年目の教訓」(2025年11月号)
- 第46回 違憲な安保法制成立から10年たって(2025年11月号)
- 第45回 権力を疑い、人を信じる-憲法からはじまる政治の授業(2025年10月号)
- 第44回 夏休みジュニア・ロースクールの取り組み(2025年10月号)
- 第43回 靖国違憲訴訟弁護団としての思い(2025年9月号)
- 第42回 第2次世界大戦の惨禍を博物館で振り返る(2025年7月号)
- 第41回 憲法の成り立ちと憲法改正草案(2025年6月号)
- 第40回 憲法記念日の街頭宣伝行動のご報告(2025年5月号)
- 第39回 日本学術会議法案の問題点(2025年5月号)
- 第38回 東弁の人権フェスティバル(2025年3月号)
- 第37回 シンポジウムを終えて(2025年3月号)
- 第36回 古くて新しい憲法のはなし⑭
「戒厳令・緊急事態と憲法~韓国の戒厳令発令と解除から学ぶ危険性~」(2024年12月号) - 第35回 古くて新しい憲法のはなし⑬
「冤罪と三権分立~政府は裁判所の「証拠をねつ造した」との判断を尊重しなければならない~」(2024年11月号) - 第34回「表現の自由の保障の意味を今一度考える」(2024年10月号)
- 第33回「古くて新しい憲法のはなし⑫ 外国人と人権~外国籍と日本国籍とで人権保障に差を設けてよいのか~」(2024年8月号)
- 第32回「『軍事化とジェンダー』を考える ~四会憲法記念シンポジウムの報告~」(2024年7月号)
- 第31回「古くて新しい憲法のはなし⑪ 死刑制度と憲法」(2024年3月号)
- 第30回 映画「オッペンハイマー」と核兵器について(2024年2月号)
- 第29回「日本の憲法の問題点」(2024年1月号)
- 第28回「先島諸島を訪問しました」(2023年12月号)
- 第27回「古くて新しい憲法のはなし⑩ 労働者は団結することによって守られる~ストライキと憲法~」(2023年11月号)
- 第26回 「関東大震災百年に思う」(2023年9月号)
- 第25回「古くて新しい憲法のはなし⑨ 多数決と憲法」(2023年7月号)
- 第24回 「坂本龍一さんと日本国憲法」(2023年6月号)
- 第23回 「憲法とSDGs」(2023年2月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編①)(2023年1月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編②)(2023年1月号)
- 第22回2022年公開の映画で考える憲法と人権(国際編➂)(2023年1月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編①)(2022年12月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編➁)(2022年12月号)
- 第21回 2022年公開の映画で考える憲法と人権(国内編③)(2022年12月号)
- 第20回「憲法の本質と緊急事態条項」(2022年9月号)
- 第19回「古くて新しい憲法のはなし⑧ 選挙の楽しみ方~有権者としての「特権」を生かそう~」(2022年7月号)
- 第18回「古くて新しい憲法のはなし⑦「有権者」って誰だ~国民主権をめぐって~」2022年6月号)
- 第17回「古くて新しい憲法のはなし⑥ 憲法9条はお花畑か。」2022年5月号)
- 第16回「古くて新しい憲法のはなし⑤ 生活の中で憲法を使って生きてみませんか。」(2022年5月号)
- 第15回「グレーゾーン事態というグレーな領域でのグレーな試論」(2022年4月号)
- 第14回「ウクライナは憲法に何を語りかけているか」(2022年4月号)
- 第13回「古くて新しい憲法のはなし④ ロシアのウクライナ侵攻と日本国憲法」(2022年3月号)
- 第12回 武蔵野市住民投票条例案について(2022年2月号)
- 第11回マイナンバーカード普及推進の問題点(2022年1月号)
- 第10回「古くて新しい憲法のはなし③「大人になる」ってどういうこと?」(2022年1月号)
- 第9回 東アジアを巡る国際情勢の変化と日本人の戦争意識(2021年12月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度①(2021年10月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度②(2021年10月号)
- 第8回 憲法学と選挙制度③(2021年10月号)
- 第7回 ワクチン接種者に対する優遇措置について(2021年10月号)
- 第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて①(2021年9月号)
- 第6回「表現の不自由展かんさい」を訪れて➁(2021年9月号)
- 第5回 演劇「あたらしい憲法のはなし3」が2021年9月10日~12日まで東京芸術劇場で開催されます(2021年9月号)
- 第4回「公益と憲法~映画助成金裁判と表現の自由~」(2021年8月号)
- 第3回「古くて新しい憲法のはなし② 憲法に書いてあることは「理想」なの? 」(2021年7月号)
- 第2回「古くて新しい憲法のはなし① 憲法って何だろう」(2021年7月号)
- 第1回「憲法はあなたを守っているのか」(2021年5月号①)
- 第1回「憲法はあなたを守っているのか」(2021年5月号②)
- 憲法出前講座
- 活動内容
第60回 死者の復員 戦死者の復員業務懈怠と靖國神社合祀のカラクリ(2026年8月号)
弁護士 内田雅敏(憲法問題対策センター委員)
ポツダム宣言第9項は「日本国軍隊ハ完全ニ武装解除サレタ後各自ノ家庭ニ復帰シ、平和的、且ツ生産的生活ヲ営ム機会ヲ得シメラレルヘシ」と謳っています【注1】。捕虜収容所でこの条項を目にした若き法学徒は、〈家に帰れるのだ!また勉強ができるのだ!〉と感激し食い入るようにこの条項に目を凝らしたといいます。
国家には戦争の終結に際し、強制動員した兵士を復員させる義務が発生します。復員の対象となるのは生存兵士だけでなく、戦死者も当然含まれるはずです。具体的には戦死者の遺骨の収集と送還です。
敗戦後、戦死者の遺族の多くが、名前の書かれた紙片だけが、あるいは石ころだけが入った「白木の箱」を受け取らされました。「遺骨なき七十九年の空白よ 戦死せし義父の墓じまいする」(2024年9月22日の朝日歌壇)
アジア・太平洋戦争における日本人の死者約310万人中、海外で亡くなった将兵約240万人、そのうち遺骨が還って来たものが100余万人、未だ100~140万人の遺骨がニューギニア、フィリピンなどの南海の島々、ビルマ、タイ、そして中国大陸に放置されています。
遺族として長年遺骨収集に携わって来たI氏は、国の遺骨収集業務の遅れを非難したところ、同席していた元佐官クラスの陸軍軍人から「そんなに怒ることはない。皆、すでに靖國神社に帰っているよ」と言われたそうです。ここに「魂」を靖国神社にお迎えしているから遺骨は放置されていてもかまわないという「靖国合祀」のカラクリがあります。明仁天皇夫妻(当時)のぺリリュウ島への慰霊の旅の報に接し、〈靖國はぺリリュウ島より遠いのか〉と歯がみし、「あんな処へ行ったって、骨はあるかもしれんが、魂はいねえよ」と悪態を吐いたのをちくられ、不敬だとして辞任させられた靖國神社の宮司もいました。「魂は俺が持っているぞと宮司言い」(詠み人知らず)です
戦死者の魂の靖國神社への「復員」は1945年8月15日の敗戦を経て、同年11月から、靖國神社で開催された臨時大招魂祭に「始まり」ます。同年11月19日から靖國神社で天皇臨席【注2】の下、靖國神社で臨時大招魂祭が挙行され、大東亜戦争(アジア・太平洋戦争)で亡くなった全ての戦死者(戦病死を含む)の魂を靖國神社に集めたとのことです。
この臨時大招魂祭は、同年12月15日に連合国軍総司令部(GHQ)より発せられた神道指令「国家神道、神社神道ニ対スル政府ノ保証、支援、保全、監督並ビニ弘布ノ廃止ニ関スル件」、(国教分離指令とも呼ばれる)が不可避であるとの見通しの下、同年11月30日の陸・海軍省解体の直前に大急ぎで別格官幣社という国家施設であった靖國神社で行われた国家行事です。
大急ぎでなされた臨時大招魂祭は、靖國神社に全ての戦死者の魂を「復員」させたとしますが、全ての戦死者の魂といっても、招魂に際しては個々の戦死者は特定されておらず、戦死した場所等も分からないものでした。分かるのは厚生省(当時)から各戦死者の個人情報「祭神名票」が送られて来てからです。名前等具体的な事実も分からないままに、すべての戦死者の魂を招魂してしまったというのですから靖國神社は凄い神通力を持っていると思われます。
靖國神社は、聖戦史観(大東亜戦争史観・植民地解放史観)によって戦死者を顕彰し、兵士の再生産を図る軍事施設・戦争神社でしたが、同時に戦死者の魂の合祀という「カラクリ」によって、戦死者の復員、具体的には遺族への遺骨の送還という国家による「復員」義務を事実上免除してきました。
硫黄島では今なお滑走路の下に約1万人の遺骨が遺されていると言われています。沖縄では、南部戦跡地の遺骨混じりの土砂を辺野古の海に埋め立て、米軍基地が建設されようとしています。今、話題になっている山口県長生炭鉱の遺骨収集問題も、民間の問題であると同時に当時の国策によるものですので、根は同じです。
日本政府は死者を敬ってはいません。戦没者の遺骨収集を「国の責務」とした戦没者遺骨収集推進法が議員立法で成立したのは、戦後70余年を経た2016年になってからです。
靖國問題には、憲法の政教分離原則、平和主義違反だけでなく、国家による戦死者復員業務の懈怠の看過という重要な問題点もあるのです。
【注1】シベリア抑留はポツダム宣言9項違反。宣言時にはソ連の署名はないが、その後署名。8月9日の宣戦布告では、四ヵ国宣言(ポツダム宣言)を受け入れないからとしている。
【注2】この時、天皇は、国民の前に、初めて軍服でなく背広姿で現れた。
