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憲法問題対策センター

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第61回 古くてあたらしい憲法のはなし⑲憲法を変えなくてもできること―変わるべきは行政、国会。問われているのは私たち―(2026年9月号)

弁護士 津田二郎(憲法問題対策センター副委員長)

近年、「社会の変化に合わせて憲法を改正すべきだ」「時代の変化に憲法が対応していない」といった意見が繰り返し語られています。しかし、本当に憲法改正が必要なのか。近年話題になったいくつかの事件を手がかりに検討してみたいと思います。

① 夫婦別姓訴訟――憲法は別姓を禁じていない
夫婦同姓を義務づける民法750条は憲法第13条、第14条、第24条に違反しているのではないかと争われる「夫婦別姓訴訟」で、最高裁は2015年12月16日、民法750条を合憲と判断する一方、「制度の在り方は国会で判断されるべき政策問題である」との判決を言い渡しました。つまり最高裁は、憲法が夫婦同姓を義務づける民法の規定は憲法違反とまではいえないとしながら、国会が法律で選択的夫婦別姓制度を作ることは可能だと判断したのです。
そのため現在の訴訟で仮に原告が敗訴したとしても、選択的別姓制度が否定されるわけではないのです。憲法第13条の個人の尊重、第24条の両性の本質的平等は、選択的夫婦別姓と矛盾せず、むしろ支える理念を含みます。国会が立法すれば、選択的夫婦別姓は直ちに実現可能です。

② 同性婚訴訟――憲法第24条は同性婚を排除していない
同性婚訴訟では、同性婚を認めない民法が憲法に違反するかどうかが争点となっています。札幌地裁判決(2021年3月17日)は、現行制度が憲法第14条に違反すると判断しました。東京地裁判決(2022年11月30日)は違憲とはいえないとしつつ、同性カップルが法的保護を受けられない現状は「合理的根拠を欠く」と指摘しました。
これらの判決で重要なのは、憲法が同性婚を禁じているとはどの裁判所も言っていないという点です。
憲法第24条の「両性の合意」は、「婚姻は当事者の自由意思による」という趣旨であり、異性婚のみを唯一の婚姻形態とする規定ではありません。
世界の多くの国では、憲法改正を経ずに同性婚が認められてきました【注1】。日本でも、仮に訴訟で原告が敗訴したとしても、立法によって婚姻制度を拡張することは可能です。ここでも鍵を握るのは国会や内閣の判断です。

③ 生活保護費引き下げ違憲訴訟――憲法も最高裁判決も尊重しない行政
憲法は、国が「してはダメなこと」(=自由権)を挙げています。そのほか、国に対して「健康で文化的な最低限度の生活」の保障を求めています。これは国が国民に対して「する」ことであり社会権と呼ばれます。社会権は、何をどのようにするのかについて考慮する余地(裁量)が大きいため、憲法違反にはなりにくい権利でした。
しかし、2013年以降の生活保護基準引き下げ(最大10%)をめぐる違憲訴訟では、各地の裁判所で合憲違憲の判断が分かれていました【注2】が、2025年6月27日、最高裁は生活保護基準の引下げの違法性を認め、生活保護費の減額処分を全て取り消す判決を言い渡しました。
先に述べたとおり社会権は裁量の余地が大きいことから、行政は財政事情を理由として生活保護基準を上げず、さらには引き下げるに至りました。これを裁判所は憲法の理念に照らして行政の判断が合理性を欠いていたと判断したのです。
この最高裁の判断を尊重するなら、行政は直ちに生活保護水準を元に戻し、憲法違反とされた時期の切り下げた保護費差額を受給者に返すべきです。
しかし政府は、新たな「調整」を行い、訴訟に参加した原告らにだけ「特別給付金」を支給するなど、司法判断を部分的にしか受け入れない対応を強行しようとしています。このことは、政府が憲法も司法判断も尊重してないことの表れです。

憲法は何か固定的な価値を押しつけるものではなく、社会の変化を包み込む柔軟性を持っています。夫婦別姓も同性婚も、憲法の理念と矛盾するものではありません。行政や国会が決断すれば、いずれも憲法を変えることなく直ちに実現可能です。
生活保護の問題は、行政機関である政府が憲法も司法判断も尊重していない姿を浮き彫りにしています。
つまり、憲法に何かが足りないのではなく、憲法を活かす行政や国会の判断が不足しているのです。そして、民主主義のもとで、国会や内閣のあり方を決めるのは私たちです。選挙での投票だけでなく、マスメディア、街頭やSNSでの一人ひとりの発言も世論を形づくります。
私たち自身に、憲法を活かすかどうかが問われています。

【注1】G7諸国のうち、日本以外の6か国(米、英、仏、独、伊、加)はいずれも憲法改正なしに同性婚もしくは同等の法的保護制度を実現しました。
【注2】処分取消を認めた地裁判決20、認めない判決11。処分取消を認めた高裁判決7。うち損害賠償まで認めた判決1。処分取消を認めない判決5。

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